2015年2月26日木曜日

11章 「再固定化療法を用いた治療」の一部(採録)

一日雨、は気が滅入るね。

例えば3で紹介したケースDを思い出していただきたい。20代後半の女性で、閉所恐怖症があり、車に乗っていて渋滞に巻き込まれると、胸のあたりがざわざわしてくる、というあのケースだ。Dさんの場合の治療者は、その状況を思い出してもらい、そこでイメージの中で新たな行動に出てもらうことでその記憶の再固定化につなげたのである。もちろんDさんに解離性障害はないし、渋滞に巻き込まれたことを想像したときに胸がざわついてきたDさんは人格部分ではない。しかしそれはトラウマの再現であり、それを体験しているDさんはいつもとは異なる心の在り方をしていたことも確かである。そしてこのような手法を、DIDにおいて傷つきを体験している人格部分についても、同じように応用することができる可能性があるのだ。
 ここであるDIDの患者Aさんを考え、そのトラウマを負った子供の人格Aちゃんを考える。Aちゃんは幼少時に野犬に襲われて瀕死の重傷を負ったという想定にしよう。するとその人格が出て反しているときにそれを想起してもらい、Aちゃんが「こうすればよかった」というイメージを浮かべ、さらには実行したつもりになってもらうという作業がもし可能であれば、それは再固定化につながる可能性がある。たとえばその犬に対して突然魔法の剣を取り出して斬り捨てる、ドラえもんに登場してもらい、撃退してもらうなどでもいいであろう。
 このようなプロセスの際、そのような作業を行うためにAちゃんを呼び出すか否か、という問題があるが、もちろんAちゃんが「寝た子」である場合には、それを「揺り起こす」必要はないであろう。その外傷記憶は再固定を待つまでもなく将来呼び出されない可能性があり、その場合に新たに呼び起こすことは治療的とは言えないからだ。