2014年7月17日木曜日

トラウマ記憶と解離の治療(推敲)15

本書においては、精神療法のさまざまな形態において、コヒアレント・セラピーの中のTRP(治療的再固定化のプロセスtherapeutic reconsolidation process)に相当するプロセスが事実上組み込まれているという主張が行なわれる。つまり記憶の再固定化がそこに生じており、それが有効に生じる為の記憶の不安定化とミスマッチという現象が起きていると言うわけである。これはある意味では非常に野心的でかつ重要な主張といえるだろう。
 ところで著者たちの主張は、再固定化のプロセスは、実は多くの治療手段の中に存在し、例えば EMDRはその例であるとする。しかし私の印象では、どうもちょっと違う気がする。たとえば EMDRを施行される方の場合にはお分かりと思うが、まず患者にトラウマ性の記憶をイメージしてもらい、EMDRを施した後、深呼吸をするというステップを踏む。そこに特別その記憶にミスマッチのある記憶や思考の探索に移るということはしない。もしその部分を組み込むとしたら、それはやはりTRP流のEMDRというべきであろう。だからEMDRの中にTRPがすでにビルトインされている、という著者たちの主張は、むしろ逆という気がする。
続いて次の例に進もう。

Cという女性のケース(P150)。
C
さんは人生の中で誰かと親密な関係になろうとすると、すぐ怖くなってしまい、その関係から身を引いてしまうということを何度も繰り返している。イメージ療法を施すと、母親に精神的に威圧されていたという子供時代の記憶がよみがえってきた。しかし母親との記憶をいくら探っても何もCさんの関係性の問題に変化は見られなかった。そのうち両親が相互に相手から距離を置いてしまう一種のダンスを踊っているのがイメージされた。すると、親密さから身を引く衝動が同時にCさんの体に感じられた。そこでそのイメージに集中してもらい、イメージの中の両親に、お互いに距離を遠ざける理由を聞いてみた。するとまず反応を見せたのは父親のほうだった。Cさんがイメージの中で父親に、「自分たちはそばにずっと居続けるよ」と伝えると、やがて彼女は父親が自分の抑うつ的な母親を失うことの恐ろしさを体感した。ここからは引用。「私たちは理解と勇気づけと継続的なつながりを与えた。それらは彼[父親]の幼児期には欠如していたものであり、それゆえに確信を揺るがす体験discomfirming experiences となった。Cさんの体の中で、彼の感情のテンションが和らぐことが体験された。」
次に母親についても同様の試みを行ったという。しかしこちらの方は心の傷つきははるかに複雑で、父親の緊張が和らぐのに比べてはるかにたくさんの準備的な作業が必要であった。ゆっくり注意深く、そして安全な抱える環境を提供し続けると、Cさんの心の中の父親が、治療者と母親との作業を見つめていることに気が付いた。彼はそこから距離をとることなく、その作業を興味深く見つめていた。そのうちCさんのイメージの中の両親は以前よりはるかに親密に関係を持つことができるようになった。この作業を続けていくことで、Cさん自身も親密な関係を持てるようになった。
非常に簡略化したが、以上が治療の流れとなる。もちろんこのプロセスが一日で終わったわけでは決してなく、何セッションも同様の治療が行われたわけである。しかし私にはやはりどこかに、「本当かいな?」という気持ちがわくことも否定できない。話ができすぎ、という気がするのだ。