2014年6月17日火曜日

解離の治療論 (62)

 そしてディスカッションに入る。かの高名な脳科学者ダマシオは、中核自己 core selfと自伝的自己autobiographical self を分けたという。この分類は面白い。中核自己とは要するに今、ここに生きているという自己だ。何となくEdelman の言う一次的意識 primary consciousness を思い出すな。ダマシオによれば、この中核自己は、身体の表象により成立し、過去や未来といった時間の感覚を欠いているという。動物が今、ここだけに生きているときの意識と考えればわかりやすいのではないか。そしてダマシオ先生は、DIDの人は基本的に同じ体を共有するから、一つの中核自己しか持たない。しかし複数の自伝的自己を持つという。いくつかの記憶を持っているからだ。そしてこの研究の結果は、このダマシオ先生の仮説を証明するものであるという。うーん、まだよくわからないぞ。
 ということで忍耐強く(私も、そしてごく一部の読者も)このディスカッションを読んでいく。ここに脳の中の一つのネットワークが存在することが分かった。それは右側MPFC,両側の中前頭回(BA6)、視覚連合野(BA18/19)、頭頂連合野(BA7/40)。
BAとはブロードマン・エリアの略で、要するに脳の皮質に関する住所のようなものだ。)
 そしてこのネットワークは、正常の人が自分に関するエピソード記憶と、自分に関係しないエピソード記憶を思い出した時の差と同一であったという。そしてこのことからNPSつまり通常出ている人格(主人格)は外傷体験を他人事のようにしかプロセス出来ないような、一種の「ブロッキング」が起きているということが分かったという。
 ところで特に右の内側前頭前野MFPCは自己概念の表象にとって特に重要であるという。(つまりトラウマを思い出させるような状況で自分を見失ってしまう、ということか。)

 ところでPOIGについて。両方とも痛み刺激で情緒的、行動的な反応を統御する場所であるという。つまり痛みを与えられたときにここが活動を高進させて痛みに耐えるというわけだ。これも主人格が精神的な痛みをコントロールするためにここの活動を上昇させるという理屈になる。