2013年10月23日水曜日

欧米の解離治療は進んでいるのか?(14)

結論から言えば、入院治療の効果が大きいにもかかわらず、それを実質的に用いるの難しくなってきている、ということだ。これは主として米国の事情であるが、日本でも多少なりとも類似のことが生じつつある。日本の精神科病床数は36万程度と、ここ何年間かあまりかわっていないが、昔のように長期間入院している患者さんの数は減った。3か月以上の入院は保険料が下がることもあり、病院は入院後3か月経った患者さんに対しては退院を促すというやり方を取っているところがかなり多い。病院は利潤の追求のためにそうしているのだろうと言われそうだが、昨今の病院経営は決して容易ではないこともあり、医療経済上無理もないとも言える。入退院のサイクルが早くなるほど人手が必要になる一方では収益は増えないような仕組みがあるからだ。
 私は原則的には解離の患者さんが入院を必要とする機会は限られていると思うが、時には彼らが非常に調子を崩し、自傷傾向や自殺念慮が高まることがあり、一時的な隔離が必要になってくる場合があることを実感している。やはりいざという場合の入院病床は、治療構造の中に用意されていなくてはならない。
 解離の患者さんの入院治療ということでぜひコメントしなくてはならないのは、多くの精神科入院が解離の方にとっては再外傷体験という意味を持ちうるということだ。確かに統合失調症の急性期においては拘束や抗精神病薬の半ば強制的な投与が必要になるが、それを解離の患者さんに行なわれてしまう場合が往々にしてある。解離性障害は統合失調症と誤診されやすいいという事情が一層その傾向を生む。ところが解離性障害の方にとっての拘束や強制的な投薬は統合失調症の患者さんのそれとかなり異なるニュアンスを持つ。両方の患者さんにとってトラウマとして体験されることがあるが、解離性の患者さんの場合は、よりトラウマとしての意味を持ちやすいという印象である。それはそうであろう。彼らが過去にこうむっている可能性の高いトラウマの状況を再現させるからである。解離性の患者さんは様々な意味で誤解を受けやすく、症状をわざと装っていると誤解するスタッフも少なくないため、その意味でも外来治療が非治療的な形で行われることが少なくない。その点解離のケースをそれだけ多く扱っている病院は安心して患者さんを送ることができる。


部分入院治療Partial hospital

入院病棟より一つステップダウンした形で部分入院が用いられることがある。(部分入院とは日本で言うデイホスピタル、デイサービス、デイケアなどである。)ここではスケジュールに従って患者へのトラウマに関する心理教育やスキルトレーニングなどが提供されることになる。ただしその効果はよりトラウマに理解のある、あるいはそれに特化したプログラムの場合に大きいという印象がある。


グループ療法
さて次はグループ療法であるが、いきなり「DIDの方々は、一般のグループを上手く用いることができにくい」とある。ここでいう一般のグループとは、異なる診断や臨床的な問題を抱えた人たちとのグループである。例えばBPDとかパニック障害の患者さんが混じっているグループだ。DIDの方々は強い情動を惹き起こしたり、そこで過去のトラウマについてのディスカッションを促すようなグループに参加することでかえって症状が悪化することがある、とも説明される。
このようにグループ療法はDIDの治療にとってプライマリーなものではないと断ったうえで、いくつかの有効性も記載されている。ただし前項のPHでも述べたように、グループ状況でのスキルトレーニングや心理教育は大きな意味を持つという。

さてDIDの均一グループ、すなわちすべてDIDの患者さんにより占められているグループの場合は少し異なるということだ。注意深く選ばれた患者さんに対して、対人関係の向上に向けて話し合ったり、個人療法の効果を補うために用いることは有効であるという報告があるという。

明日から少し解離をお休みして、「エナクトメント」について何回か考える。