2011年9月23日金曜日

精神科「わたしの診療手順」

11月20日ごろまでに、次のような手順で解離性(転換性)障害について書く必要がなぜか生じた。詳しい事情を書くわけにはいかない。しかしこれほど枠にはめられた執筆は例がないが、かえって面白いかもしれない。
ただし執筆の意欲や意気込みはかなり低い。(どこかに書いたようなことばかりだからである。新しいことがかけない。)よってこの場を使うことにする。
                         

ステップ I 受診理由(請託内容)の事前確認
1.お困りの症状は?
① 一番お困りの症状はなんでしょう?
本疾患を疑わせるのは、
・世界がいつもと違ったように見えたり、自分自身の知覚や体の感覚がいつもと違っていると感じるが、うまく言葉では説明できない。
・身体の一部の機能が失われることがある。失声、失明、耳が聞こえない、足腰が立たなくなる、などの症状が突然失われ、または回復する。
・一定の期間のことが後になってそっくり思い出せないことがある。
・自分が買った(もらった)覚えのない物を所持している。
・他人から別の名前で呼びかけられる。

・自分の中に異なる部分があり、それらが話しかけて来る声(幻聴)が聞こえたり、それらと話し合ったりする。
② 他にお困りの症状はないですか?
本障害の場合、患者自身がそれを異常なこととみなしているかどうか、問診者に警戒の念を抱いていないかなどより、症状の訴え方が大きく異なる。幻聴、内部の人格との対話などについては注意深く尋ねる必要がある。
2.症状のこれまでの経過は?
① 最初にそれらに気がついた時期について尋ねる。多くの場合幼少時にさかのぼるために、時には家族からの聴取も必要となる。
② 症状が学校生活や仕事に支障をきたすようになった時期の生活環境について特に尋ねる。多くの場合外傷性のストレスが契機となっている。

③ 異なる人格状態により、症状の経過に関する話が異なる場合があるので注意する。
3.生活への支障は?
・人とのコミュニケーションに支障をきたす。
・人からわざと病気のふりをする、演技をしている、と思われやすい。そのために学校や職場で誤解されたりいじめにあったりすることがある。
・就学や継続的な勤務に困難が生じる。
4.今日来たきっかけは?当院(当科)を選んだ理由は?
・本障害の診断を確定してほしいという場合には関連疾患に関する著作以外にもインターネットや口コミの情報によるものが多いであろう。
5.ご自分では「何のせい」だと?
① 幼少時期の虐待や外傷がなかったか?
② 最近になりストレスや過去の外傷を思い起こさせることはおきていないか?
 うつ病、PTSDなどの併存症の悪化が生じていないか?
6.医療側への期待を確認する
① 「ここでして欲しいと期待していることは何ですか?」
本障害の場合、診断を確定してほしいという場合と、その診断は了解しているので、それに対する継続的な治療をしてほしいという場合がありうる。
ステップ II
1.問診
 本障害の問診は、ほかの精神科疾患と際立って変わることはないが、問診中に解離症状がおきたり、話題によっては人格の交代現象が生じる可能性があるので注意を要する。また症状の経過自体に対する健忘が生じている場合には、家族や同居者からの情報も時には非常に重要となる。

2.身体診察・検査手順
特に転換性障害の場合には、一般内科、神経内科における検査による身体疾患の除外が重要となる。しかしそれは必ずしも容易ではない。またしばしば身体疾患が併存している場合がある。解離性のてんかん(擬性てんかん)の場合には、脳波異常を伴う実際のてんかんが並存することも少なくないのはその例である。
3.病名分類診断
解離性障害と転換性障害は、DSMとICDではその分類の仕方が異なるので注意を要する。(ICD-10と異なり、DSM-Ⅳでは転換性障害は解離性障害にではなく、身体表現性障害の中に分類されている。)
4.症例定式化(case formulation)
基本的には生来の高い解離傾向と、幼少時の外傷性ストレスとにより本障害が形成されるものと考えられる。解離は外傷性のストレスを乗り切るための防衛として用いられるようになり、そのために生じる解離症状が常態化、慢性化して本障害が成立する。そして現在の精神的、身体的ストレス、併存症の存在が、症状の悪化を招く傾向にある。
ステップ III
1、病態・治療法の説明
① 診断の説明
解離性障害の概念は複雑であるが、とりあえずそれが統合失調症や詐病、「なまけ病」とは異なる現実の精神疾患であるということを説明する。
②病態の説明
病態の説明も容易ではないが、基本的には通常は統合されているはずの心身のさまざまな機能が分断され、それらの一部が一時的に機能を失ったり暴走している状態として症状を説明する。
③転帰の説明
解離症状、転換症状はその多くが時間とともにその華々しさを失っていく傾向にあるが、一部にはそれが非常に長く遷延するケースもあることへの言及も忘れてはならない。またうつ病などの合併症が伴う場合にも症状が慢性化する傾向にあることも説明する。
④治療法の説明

本障害の治療は精神療法が主体となり、薬物療法は対症療法的であったり、合併症の治療に向けられたものであることを説明する。
2 治療契約の協議

① 精神療法のための毎週~隔週の通院が必要である点を説明する。また場合によっては精神療法を提供できるような他機関を紹介する必要も生じるだろう。また治療は比較的長期にわたる可能性もあり、家族や同居人の協力も必要であることを説明する。
② 治療において解離症状が一時的に頻発する可能性も説明し、場合によっては治療への付き添いも必要となる点について理解を求める。
ステップ IV 治療手順
1.初診時
心理教育
解離性(転換性)障害がどのようにして生じ、どのような症状を示し、どのような治療手段が考えられるかについて説明する。そこには適切な書籍や文献を紹介することも含まれる。
精神療法
①上述の心理教育や、同障害の精神療法の趣旨について説明する。すなわち同障害は患者が自分の気持ちを自由に表現する機会を与えられることを治療の基本としていることを告げる。

②症状の引き金になっている可能性のある社会生活上のストレスについて検討し、その回避および軽減の方法について話し合う。薬物療法





とりあえずは現在見られる症状、すなわち不眠、興奮、抑うつに対する薬物を処方する。
① 急性期における身体的障害、家族の消耗を避ける意味での  精神安定剤の使用。
  ジプレキサ(5) 1~2T 興奮時頓用
 デパス(0.5) 1~2T 不安時頓用
② 合併症としてのうつ病の徹底したコントロール。
  ジェイゾロフト(25) 2~4T 眠前
  アナフラニール(10) 4~10T 眠前

2.維持期に至るまで
精神療法
① 症状の程度や頻度、それによる社会生活上の問題を明らかにしたうえで、治療目標を定める。支持的なアプローチに従う精神療法的な設定を提供することが望ましい。その際治療者は同障害についての知識と治療経験を一定程度持っている必要がある。
② DIDの場合は症状に特化した精神療法的なかかわり(個々の交代人格との接触を含む週に一度のプロセス)について説明し、了解を得る。
③ 解離性の健忘が生じている際の対処法として日記をつける、ホワイトボードを用いる等の指示を与えることが望ましいであろう。

薬物療法

3.維持期以降

精神療法
① 継続的な支持的アプローチ、生活環境の調整。
② DIDの場合は症状に特化した精神療法の継続。(2~3週に一度の頻度。)

薬物療法
① 継続した抗鬱剤、気分安定剤の使用。