2025年1月4日土曜日

「週1回 分析的サイコセラピー」書評 2

 ところでこの書評、なんと1200字。あっという間の短さである。

そこで気になる章から読んでみる。最終章に当たる山口貴史氏の「POSTを通じて考える週一回における『精神分析的』」という論文。彼の本は最近書評を書いたばかりだから読みやすいと思って読んでみた。やはり読みやすい。内容がすっと入ってくる。この章はいわゆるPOST精神分析的な支持療法)の動きを端的に説明してくれていて、それと「週一回」との違いを描いていて興味深い。実は私はPOSTについて勉強不足だったので、これで少しは解消された。ここで特徴的なのは週一回精神分析的心理療法(PAT)と週一回POSTの一番の違いは、前者は転移を集めるが後者は拡散するという違いがある。というのもPOSTはなるべく転移を扱わないというのが一つの方針としてあげられるからだという。これは違いとして面白い(賛成かどうかは別として)。そしてPOSTでも転移は起きるが、扱わずに「心に留め置く」という。週一回PATは要するに精神分析だから、無意識も転移も扱うということになる。これはわかりやすい。これでPOST派の論客たちの立ち位置はかなり明確になった。


2025年1月3日金曜日

男性の性加害性 見出し 1

これまで書いたことの見出しを作ってみた


1.男性という生きもの

● なぜ男性が語り、説明しないのか?

● 男性は存在するだけで(女性を見るだけで)加害的なのだろうか?

● 女性の側に見られたい願望はないのか?

● 健康な「イチャつき」はあり得るのか?

2.男性の性を深堀りする

● 男性の性は基本的に「搾取」の構造を取る

● 性加害性はなぜこれほど男性に際立っているのだろうか?

● 性倒錯はなぜこれほど男性に多いのか?

● 動物学から見た男性性

● 男性は潜在的にはセックス依存症なのだろうか?

● 男性はなぜ自分で暴走を止められないのだろうか?

● 性犯罪者は病的な性依存症なのだろうか?

● 男性という存在の悲劇性、救いの道はあるのか?

● 性倒錯者に救いの道はあるのか?〈たぶんないだろう〉

3.男性の側の言い分

● 「癒し」を求めてはいけないのか?

● 劣情を刺激されたという意味で「被害者」?

● 女性のいない世界に行きたい?

4.女性の側の言い分

● 「かわいい」を追求してはいけないのか?

● 別に男性にみられなくてもいい?

● 隠すことの誘惑性と「かわいい」

● 抑えがたい怒りを、だれに、どのように表現したらいいのか?

5.最大の問題:被害者にどのように説明するのか?

● 「癒してもらいたかった」では到底納得できない。


2025年1月2日木曜日

「週1回 分析的サイコセラピー」 書評 1 

 週一回 精神分析的サイコセラピー 高野晶、山崎孝明編 遠見書房 2024年 書評

 もう一つの依頼による書評。この書評を書くことは少し憂鬱であった。というのも「週1回サイコセラピー」という概念が私にはピンと来ないからである。本来「週1」には「精神分析のように週4回じゃなくてごめんなさい」「でも週一にもそれだけ見どころがありますよ。」という言葉は悪いが「卑屈さ」の雰囲気があると感じていたからである。私にすれば「週1は当たり前ですよ」「週1だけでも立派じゃないですか。」「2週に1度30分の人もいますよ」である。何も卑屈になる理由はない。ところが「週1」にはやはり精神分析という超自我が影響を及ぼしているのである。どこかに「週4の精神分析が理想である」という考えがあるのだ。

私が書いている事は極論でも何でもない。考えてもみよう。週1だけでも一回8000円~12000円かかるのだ。月にして5万円。それをサイコセラピーにつぎ込むことができるクライエントがどれほど存在するだろう。週1だけでも十分濃厚だと言えないだろうか。


2025年1月1日水曜日

男性の性加害性 推敲 14

 しばらく前にもこのブログで検討した問題。ポルノとカタルシス効果について。斎藤章佳著:子供への性加害-性的グルーミングとは何か (幻冬舎新書, 2023年) のp.86にある記載が扱っている問題だ。ポルノが性犯罪に対して及ぼす影響についての議論につながる。  ポルノ規制が語られる際に、それに対して反対意見として出されるのが、いわゆる「カタルシス効果」を強調する意見である。つまりポルノによって性欲が解消されて性犯罪が減るのではないか、という議論。斎藤氏の本によれば、その実証結果はほぼ皆無だという。具体的には、英語圏でなされた46の実証研究を Paolucchi et al (2000)がメタ分析をしているが、ポルノに晒されると「逸脱的な性行動を取る傾向」「性犯罪の遂行」「レイプ神話の受容」「親密関係に困難をきたす経験」がいずれも2,3割増加したという。(原文も付け加えよう。

The results are clear and consistent; exposure to pornographic material puts one at increased risk for developing sexually deviant tendencies, committing sexual offenses, experiencing difficulties in one's intimate relationships, and accepting the rape myth.  In order to promote a healthy and stable society, it is time that we attend to the culmination of sound empirical research. (同論文 P.3)

もう一つ Ybara,et al (2001)の研究も紹介されている。10~15歳の男女を対象に、「暴力的な性的描写の視聴経験」があるかないか、という違いと「性的な攻撃行動」との関連性を調べたところ、前者がある場合には後者が6倍も高いという結果であったという。

Paolucci EO, Violato C. A meta-analysis of the published research on the affective, cognitive, and behavioral effects of corporal punishment. J Psychol. 2004 May;138(3):197-221.
Ybarra ML, Thompson RE. Predicting the Emergence of Sexual Violence in Adolescence. Prev Sci. 2018 May;19(4):403-415

さてこれは何を意味するのだろう?ポルノにより性的逸脱傾向が増す、という議論は「抑止効果」についての議論と一見相反するもののように思える。しかし実はケースバイケースではないか。二次元の世界に夢中になり、現実の異性に関心が向かなくなるという言説は完全に否定されるのか? それともこの研究は「PC(ポリコレ)」だからなのか?
でも一つ確実なのは「抑止効果」説はそれなりの根拠を示さない限り信憑性を得られないということだ。最近の若者が異性との親密なかかわりから遠ざかる傾向が、よく彼らの「二次元」での異性関係と関連付けられるのは確かだ。しかしこれはこの議論の反証になるのだろうか。

謹賀新年

これがアップされるのは令和7年元日ということになる。ということで 謹賀新年

昨年もまたいろいろなことがあり、ある意味では平穏に過ぎていったが、新しい出会い、徐々に失われていく出会いなどをいろいろ体験している。老いの現実には毎日直面している。
年末に書評の依頼という形で読むことになった「メンタライゼーションと遊ぼう」(池田暁史氏)「サイコセラピーを独学する」(山口貴史氏)と「週一回精神分析的サイコセラピー」(高野晶氏、山崎孝明氏)にはいろいろな刺激を受けた。昨年夏に序文を頼まれた「心理療法は脳にどう作用するのか」(ジェレミー・ホームズ著、筒井亮太氏訳)も読むうちにいろいろな学びがあった。(いまだに序文だけを書いたのにもかかわらず、筒井さんより前に名前が出ているのが後ろめたくてしょうがない…)しかし問題はそのような機会がないと新しい本を読まないという私の悪い癖である。新しいものを読む時間に自分で何かを書きたくなるからだ。

今年あった出会いとしては信田さよ子先生との対談の機会を得たことがとても大きかった。どのように展開するかはまだ未知数だが・・・・。

今年もこのアリバイとしてのブログは続ける予定である。