しばらく前にもこのブログで検討した問題。ポルノとカタルシス効果について。斎藤章佳著:子供への性加害-性的グルーミングとは何か (幻冬舎新書, 2023年) のp.86にある記載が扱っている問題だ。ポルノが性犯罪に対して及ぼす影響についての議論につながる。
ポルノ規制が語られる際に、それに対して反対意見として出されるのが、いわゆる「カタルシス効果」を強調する意見である。つまりポルノによって性欲が解消されて性犯罪が減るのではないか、という議論。斎藤氏の本によれば、その実証結果はほぼ皆無だという。具体的には、英語圏でなされた46の実証研究を Paolucchi et al (2000)がメタ分析をしているが、ポルノに晒されると「逸脱的な性行動を取る傾向」「性犯罪の遂行」「レイプ神話の受容」「親密関係に困難をきたす経験」がいずれも2,3割増加したという。(原文も付け加えよう。
The results are clear and consistent; exposure to pornographic material puts one at increased risk for developing sexually deviant tendencies, committing sexual offenses, experiencing difficulties in one's intimate relationships, and accepting the rape myth. In order to promote a healthy and stable society, it is time that we attend to the culmination of sound empirical research. (同論文 P.3)
もう一つ Ybara,et al (2001)の研究も紹介されている。10~15歳の男女を対象に、「暴力的な性的描写の視聴経験」があるかないか、という違いと「性的な攻撃行動」との関連性を調べたところ、前者がある場合には後者が6倍も高いという結果であったという。
Paolucci EO, Violato C. A meta-analysis of the published research on the affective, cognitive, and behavioral effects of corporal punishment. J Psychol. 2004 May;138(3):197-221.
Ybarra ML, Thompson RE. Predicting the Emergence of Sexual Violence in Adolescence. Prev Sci. 2018 May;19(4):403-415
さてこれは何を意味するのだろう?ポルノにより性的逸脱傾向が増す、という議論は「抑止効果」についての議論と一見相反するもののように思える。しかし実はケースバイケースではないか。二次元の世界に夢中になり、現実の異性に関心が向かなくなるという言説は完全に否定されるのか? それともこの研究は「PC(ポリコレ)」だからなのか?
でも一つ確実なのは「抑止効果」説はそれなりの根拠を示さない限り信憑性を得られないということだ。最近の若者が異性との親密なかかわりから遠ざかる傾向が、よく彼らの「二次元」での異性関係と関連付けられるのは確かだ。しかしこれはこの議論の反証になるのだろうか。