そこで実際に「DID患者の既遂自殺率」を正面から扱った研究を調べたが、これはほとんど見当たらない。これは単に研究が不足しているというだけでなく、別の可能性もあると思う。たとえば自殺願望を担う人格状態と生存を担う人格状態と養育的な人格状態が内部で拮抗しているため、「未遂は非常に多いが最後の一線で止まる」という現象が起きている可能性がある。実はこれは、解離研究よりもむしろDIDの臨床記述の中に散発的に現れる観察である。
「DID患者の既遂自殺率は本当に低いのか? 」「人格状態間の葛藤は自殺を阻止するのか?」
「Ross、Putnam、Brandらはこの問題をどう論じているか?」というテーマでAIに調査をしてもらった。ちなみにこれはまだほとんど未開拓のテーマである。DID/解離性障害の自殺「未遂」と「既遂」を分け、Ross・Putnam・Brandらの臨床研究や治療研究で何が言えるかを、できるだけ一次文献に近い形で確認してもらった結論としては、DIDの既遂自殺率が「低い」と断定する根拠はない。ただし、未遂率の高さに比べて、既遂についての系統的データは驚くほど少ないということである。
1. 既遂自殺の数値
Rossらの236例研究では、MPD/DID患者の 72% が自殺未遂、2.1% が既遂自殺 と報告されている。これは「既遂が少ない」というより、「未遂率が非常に高い割には既遂データが限られている」と読むべきだと思う。
Putnamらの100例研究では、治療者調査で 既遂自殺1% が示されたが、これは過小評価かもしれないと後続文献で注意されている。
Kluftは1995年に DID患者6例の既遂自殺 を臨床観察として報告している。これはまさに既遂を扱った稀な論文で、DIDにおいて既遂が起こりうることを示す重要文献。
2. Brand / TOP DD研究から言えること
BrandらのTOP DD研究は、DIDを含む解離性障害患者280名と治療者292名、19か国規模の前向き自然istic研究で、現在でも最大級。30か月の治療経過で、解離、PTSD、抑うつ、自傷、自殺未遂、入院などが減少したと報告されている。 ただしこれは既遂自殺率の研究ではない。
ただし重要なのは、30か月研究の本文に「最終サンプルのうち1名が30か月間に自殺した」とある点。つまりTOP DDでも既遂はゼロではないが、主要アウトカムとして十分に分析できる件数ではない。
3. 「人格状態間の葛藤が自殺を阻止するか?」
ここは、直接の統計研究はほぼ見当たらない。しかし臨床的には十分ありうる仮説だと思う。
Brandらのレビューでは、DID治療では安全確保・安定化・治療同盟が第一段階に置かれ、解離した自己状態を認識し、それらと作業することが重要とされている。 またTOP DDでは、治療者が自己状態と頻繁に作業しており、その治療中に症状改善が見られたとされる。
だから、証明済みとは言えないが、自殺を望む部分がいても、別の部分が生存・保護・治療継続を担うことで、行動が中断されることがある。