なおガイドラインにはこうも書いてある。「一部の患者にとっては、より現実的で長期的な帰結とは、協力的な取り決め cooperative arrangement であろう。それはしばしば「解決 resolution」 と呼ばれ、最善の機能を達成するために、交代人格たちの間で必要な程度に統合され、協調された機能を営むことである sufficiently integrated and coordinated functioning among alternate identities to promote optimal functioning.」(p.134)
英文が混じって読みにくいかもしれないが、なるべく正確な翻訳を目指しているからだ。患者にとっての解決とは要するに「必要な程度の統合」と協調であるということだが、その統合を完全に一体化したものと表現するのではなく、十分にsufficiently という言い方をして、「ある程度の」でいいのだということをここで示しているといえる。そして統合が実際どの程度に行われるかということについては、以下のように書かれている。「治療結果についてのシステマティックなデータによれば、完全な統合(最終的な融合)に至るのは16.7~33%のケースである (Coons & Bowman, 2001, Coons & Sterne, 1986, Elliason & Ross, 1997)。」(p.134) この数字はまだ統合が治療の目標であることは当然であるという了解が治療者の間になされていた時代のことである。おそらくこの16~33%という数字もかなり水増しされていたのではないかと私は考える。
ここで統合と融合という用語の使い分けにも触れておこう。ガイドラインには以下の文章がみられる。 「統合 integration や融合 fusion などの用語は混同されて用いられている。クラフトの以下の文章が引用されている。『[統合とは]人格の数や特徴が減少し始める以前から生じている、解離的な分離のあらゆる特徴が解消されるような現在進行形のプロセスである』。」(Kluft, 1993, p109.)
ここでやはりクラフトがどのような使い分けをしているかを示していることが興味深い。経典はクラフトの文章、という印象がある。そしてガイドラインは次のように述べている。「融合は二つ以上の交代人格が合わさり、主観的な個別性を完全に失う体験を持つことである。最終的な融合とは患者の自己の感覚が、いくつかのアイデンティティを持つという感覚から、統一された自己という感覚にシフトすることである。」そして再びKluft の引用。「クラフト は「最終的な融合 final fusion」と「完全なる統合 complete integrtion」を同等に扱っている。(同1993)
結局私自身の結論としては次のようになる。2つの人格が一つになる程度なら融合 fusion と呼ぶ方が適切であろう。単に二つが一つになるという意味で。ただしそれは人格全体の中の部分的なプロセスを描いているというニュアンスがある。ところが全体が一つになるという意味ではやはり統合 integration が使われるべきだ。ただしその意味では融合も広い意味では統合の一つのプロセス、ということが出来るのだ。