ハウエル先生はこの本でかなり本音を語る。「そもそも統合 integration という語やその背後にある概念が問題だ。ラテン語の integer は単位とか単体 unit or unity であり、統合という概念はワンパーソン心理学の概念なのだ。」(143). 関係論的な立場の人にとっては、ワンパーソンサイコロジー(一者心理学)といわれると、もうそれだけで「終わっ」ていると言っているようなものだ。そしてハウエル先生はもちろん関係論の立場だろう。そして彼女の書いているおそらく一番大事な文章。「文脈的な相互依存 contextual interdependence という概念により、解離対統一という対立項を回避することができる」(143)。
たとえるならば「男性は怖い」という反応に留まり、囚われるのではなく、人生の別の文脈では「男性は優しい」「男性はどうしようもない存在だ」などと体験できるようになることがこの文脈的な相互依存ということであるという。そしてこの「文脈的な相互依存 contextual interdependence は、「解離 vs 統一」という対立構造を回避することができる。」(p.143)とある。
ちなみにハウエル先生はパトナムのDBS理論に依拠しているという。ではDBSとは何か。フランク・パトナムの離散的行動状態理論 (Frank W. Putnam: Dissociation in Children and Adolescents: A Developmental Perspective. Guilford Press, 1997) その前提となるのは 1.人間は最初は精神状態・行動状態をいくつも持つが、発達に伴いそれらの状態間をスムーズに移行出来るようになる。
2.交代人格という状態は,その他の通常の状態とは違い、虐待などの外傷的で特別な環境下で学習されたものだが、それらの移行がスムーズに行われない。
パトナム先生によれば、人間の行動は限られた一群の状態群の間を行き来するのであり、DIDの交代人格もその状態群の中の1つであるとする.交代人格という状態は,その他の通常の状態とは違い虐待などの外傷的で特別な環境下で学習される.そのため,交代人格という状態とその他の通常の状態の間には大きな隔たりと,状態依存性学習による健忘が生じると考える.パトナム(Putnam 1997)にとって精神状態・行動状態というのは,心理学的・生理学的変数のパターンからなる独特の構造である.そして,この精神状態・行動状態はいくつも存在し,我々の行動はその状態間の移行として捉えられる.