DIDにおける幻聴
先の自験例では幻聴については記述しなかったが、解離性障害、特にDIDにおいては幻聴は極めて頻繁に報告される。幻聴はDIDで特に多く、100%に見られ、その多くは交代人格の間の会話であるとする。
(Steinberg 1994, Middleton1998)Steinberg, M (1994)structured clinical interview for DSM-IV dissociative disorders Revised (SCID-D-R) Washington, DC. American Psychiatric Press.
Middleton, W & Butler, J (1998) Dissociative Identity Disorer: an Autsralian Series. Australian and New Zealand Journal of Psychiatry, 32.794-804.
Nurcombe et al (1996)によるとDIDの幻覚の特徴は、突然の始まり、心理的な危機が関与し、1日~一週間ほどの継続期間であり、各エピソードの間に心理的な悪化はない。そして意識の変化、情動的な混乱、衝動的な行為、そしてトラウマに関連した異常知覚が伴うことが多いという。
Nurcombe et al (1996) dissociative hallucinosis and allied conditions. In F.R. Volkmar (Eds) Psychoses and Pervasive Developmental DIsorers of Childhood and Adolescnc. Washington, DC. American Psychiatric Press.
Putnam (1997) は解離性幻聴の特徴として以下をあげている。(野間先生の発表資料(2019)による。)
頭の内部で聞こえる。
はっきり聞こえ、明確ないつも同一の「人格」特徴を持っている。
大声で侵入性が高く注意集中や思考が困難(「こころの交通渋滞」)。
内部の声を幻声と認識し、現実の声と混同することはない。
自分から訴えることは少ない(精神病と思われないように)
DDNOS(明確な人格交代のない場合)では少なそう。
なお柴山(2005)によれば、以下の通りである。
身近な空間(例カーテンの影、窓の周辺)から聞こえる。
内部空間と外部空間は明確に区別されている。
幻聴から発展して妄想的になることはない。
主体にとっての意外性や未知性はない。ほとんどに離人症状あり。
幻覚に対する余裕、自由、選択可能性がある。
また柴山は解離性障害で見られる幻聴には二種類あるという。
柴山雅俊(2017)解離の舞台 症状構造と治療 金剛出版.
柴山はp.209 (「第14章 解離性障害と統合失調症」) で解離性の知覚異常に触れている。そして1.フラッシュバック しばしばこれが解離性幻聴であるとされがちだが、その一部にすぎないとする。
2,交代人格(不全型も含む)に由来する幻聴。特に「死んでしまえ」などの攻撃的なものや「こっちにおいで」という別の世界へ誘いかける内容などで、これはフラッシュバックとは異なる、としている