幻聴体験に関しては解離性のものと統合失調症性のもの鑑別は臨床上かなり重要となる。柴山は解離性の幻聴は、患者の気分との連続性が見られることが多く、幻聴の主を対象化、すなわち特定できることが多く、これは統合失調症の際の把握できない、不明の主体であることとかなり異なるとする。そして柴山が特に強調するのが、統合失調症における他者の先行性という特徴だ。少し長いが引用しよう。
「概して統合失調症の幻聴は、自分の動きに敏感に反応して、外部から唐突に聞こえる不明の他者の声である。そこには自己の意思や感情との連続性は認められない。その声は断片的であり、基本的にその幻聴主体を対象化することは不可能なものとしてある。幻聴の意図するところは、常に把握できない部分を含んでいる。従ってその体験はある種の驚きと困惑を伴っている。それに対して解離性障害では、他者の対象化の可能性は原理的に保たれており、不意打ち、驚き、当惑といった要素は少ない。」
両者の鑑別については以下に表にまとめておくが、その再注目すべき点は、それが心理学的な要因により浮動する点である。そして主体はそれが現実の声とは異なることを直感的に分かっている。
統合失調症性の幻聴の例: 30代女性
(中略)
「声」は実際の彼女たちの声であり、それがなぜか聞こえてくるのであり、幻聴ではなく実際の声なのだ。
この例にみられるように、声の主が現実の他者の声との識別が解離の場合には出来るのに対し、統合失調症の場合は曖昧であるだけでなく、区別がつかないことがある。これは統合失調症性の他者が通常は匿名性を帯びていて特定できないことと一見矛盾しているようにも見える。しかしこれは統合失調症性の幻聴が関係念慮としての性質を帯びていると考えるとわかりやすい。この例のように遠隔にいる他者が声を送ってくるという体験はテレビやSNSで自分のことが話されているという体験に近いのである。