2025年12月24日水曜日

PDの精神療法 書き直し 2

見立てにおいて必要な指針(BPDかASDかCPTSDかの視点)

患者のヒストリーを追い、その「認知、感情、対人関係、衝動の制御」(DSM-5)に基づくPDの診断を考慮する際に、従来の臨床家なら、DSMの10のカテゴリーの中のどれに一番当てはまるかを考えるかもしれない。しかし現代の精神科医はもう一つの考える指針を手にしている。それはDSM-5の第三部の代替案やICD-11のディメンショナルモデルに掲げられた「特性」を手掛かりにするという方針である。そしてその際患者がどのようなPDを有するのかを特定する必要はない。それはPDの程度(軽度、中等度、重度)と顕著な特性をいくつか挙げるだけでいいことになっている。

 特性 trait としては、DSMとICDで多少の差はあるものの、以下の5つが提示されている。ここではICD-11 に従うと、否定的感情(鬱・不安などのネガティブな感情が支配的である)、離隔(他者との対人的・情緒的距離を保つ)、非社会性(他者の権利や感情を無視する)、脱抑制(唐突に行動する)、制縛性(強迫的な思考、行動パターン)の5つであるが、そこに並んでボーダーラインパターン(不安定な対人パターンや衝動性、見捨てられ不安)が加えられる。つまり患者の話を聞きながら、これらの特性のどれがどのくらい強いかを考える事になる。
 ただしここに二つの大きな要素が加わることを忘れてはならない。それは最近精神科医や心理士の間で急速に関心が高まっているASD傾向、そしてCPTSD(複雑性PTSD)に見られるパーソナリティ傾向である。
 ちなみにこれらは実はカテゴリカルモデルにも、ディメンショナルにもみられないものである。要するにディメンショナルモデルの5つは Goldberg のいわゆる big five factor に由来し、少なくとも半分は遺伝的に支配されるものと想定していたというところがある。つまりこれらが定められた過程で発達障害や幼少時のトラウマという観点は薄かったということである。ところが臨床的には多くの患者が多かれ少なかれASD的な特性を併せ持ち、また幼少時の愛着に関連するトラウマを抱えているという事実がある。
 このように考えると、ASDにおいては、否定的感情、離隔、制縛性などが関与し、CPTSDにおいては否定的感情、離隔などが顕著な特徴として表れている可能性がある。そしてPDの傾向としてはBPD傾向に加えてこれらのファクター(BPDかASDかCPTSDかの視点)を念頭に置いて見立てを行うことを私は臨床家に勧めたい。