2025年7月15日火曜日

男性の性加害性 5

 私がここに提示するのが、二つのモデルである。これらはある意味では重複しているため、まとめて「自己強化ループモデル」と呼ぶが、一応別個のものとして論じることから始める。ちなみにことわるまでもないが、これらは性依存や強迫的性行動とはいちおう別の議論である。すなわち性依存でもなく、強迫的性行動でなくても、問題となるモデルであるが、それらとも深く関係している可能性があることが、後で分かるだろう。(というか、これを書きだした時点ではよく分からない。これから書きながら探求するのだ。) この自己強化ループモデルの特徴を一言でいえば、性行動はいったん始動すると、途中で止めることが難しい、という現象を説明するモデルであるということだ。

さて以前「男性の性加害性2」で示したスライドでも示したように、この「自己強化ループ」を説明する理論は二つある。

① ポジティブフィードバック理論

② インセンティブ感作理論 incentive sensitization   theory (IST)

このうちまず①のポジティブフィードバックについて。

一番なじみ深いのはいわゆるネガティブフィードバックだ。これはとてもよくあるシステムで、安定化方向への制御のためのあらゆる装置である。例えば体温や血圧や血糖値などはみなこのシステムだが、要するにサーモスタットのようなものを考えるといい。温度が上がるとバイメタルが曲がってスイッチが切れる。そして温度が低くなるとバイメタルが元通りに戻ってスイッチが入る、というように。このネガティブフィードバック(以下、NF)がいかに必要かは次のような例を考えればいい。お腹がすいたから食事を摂る。すると空腹感は次第に癒され、最初は旺盛だった食欲は低下し、次第に食事を見るのも嫌になり、摂食行動は終わる。その細かいメカニズムはおそらくかなり複雑だが、だいたい私たちの食行動はこのようにしてバランスが取れている。  ここで思考実験だ。ある人は空腹なのでお菓子を口にすると、さらにお腹がすいた気分になり、もう少し食べる。するともっと食べたくなり、最後にはお腹がはちきれんばかりになってもさらに食欲が加速し、最後には胃が破裂してしまう。これは実に怖ろしい現象であり、たちまち生命維持に深刻な問題を起こす。あるいは血圧が少し上昇すると、それをさらに押し上げるようなホルモンが産出され、最後には脳出血や心不全を起こしてしまう。

 この悪魔のようなプロセスは、実はポジティブフィードバックを描いたものである。普通は生体には起きないことだが、私たちは過食症や飲酒癖などがそのようなループにより歯止めが効かなくなりそうな状態が存在することを知っている。  ここで気が付くのは、ポジティブフィードバック(以下、PF)はそれが生じたとしたら、生体は行くところまで行ってしまい、元のバランスには容易には戻れないであろうということだ。ある種の破局的、ないしは一方向性の現象が起き、行くところまで行って戻ってこれない。これは例えば排卵のプロセスに当てはまる。