2025年3月18日火曜日

関係論とサイコセラピー 29

 このギャバ―ドさんの論文を一週間かけて読んだことになるが、その成果は十分あった。視野がかなり広がった気がする。この論文の最後に、彼は以下の5項目に分けて結論を述べている。

 1.治癒機序は一つではないのだ。おそらくいくつかのメカニズムの複合であり、それらのうちには私たちが知りようがないものも含まれる可能性がある。← これはとても謙虚な姿勢であり考え方だと思う。

2.ある治癒メカニズムはある人にとってしか有効でない、ということがおそらく起きているのだろう。だから「これが唯一の治癒メカニズムだ」と言いたくなるたびに、それは私たちが持つ、「不確かなことへの不安」が関係していると思うべきである。治癒メカニズムについてもう少し洗練されたものにしようとするならば、人格の機能を構成するようなもの(動機、認知、情動、情動のコントロール、対象関係)についての極めて精緻な議論を必要とすることになるだろう。(それをしないで治癒機序だけ詳細に論じることは出来ないだろうという意味だ。)

3.上に述べた介入はそれぞれが複雑に絡み合っている。例えば洞察により情緒的な制限から解放されると、より親密な関係を結ぶようになり、それによりかえって危機的な状況にさらされる可能性も増える、などということが起きる。どれ一つとして単体で働き、一つの効果を生むという形はとらない。

4.治療目標や介入のそれぞれが互いに葛藤的とならないという保証はないこと。探索的で非介入的な手法と介入的でアクティブな介入は、時には相互に抑制し合うということもあり、これまでに述べた介入を単に組み合わせるだけではうまく行かないこともある。

5.これはギャバ―ド先生の教えの真骨頂か。「精神分析においては、治癒機序については、何が治療的で患者にどのように援助するのがベストかということについて、論理的に考えることが出来ると思いがちである。しかしこれはむしろ経験的 empirical な疑問であり、何が効果があるかについては、それぞれの立場から、自分たちのそれぞれ隠された治療経験のみをもとに論じているにすぎないからだ。(中略)今後は何が治療的かを論理的に示すのではなく、証明する必要があるのである」(p838)。