我が国におけるDIDの処遇について
さて我が国におけるDIDが司法の場でどのように扱われているか。この件についていくつか言えるのは、DIDを有する人の責任能力についての判断が問われることが増えていること。ただし結局はほとんどにおいて(つまり以下に述べる3例を除いて)「完全責任能力あり、すなわち有罪」となるのであるが。それでも進歩しているのは、以前はDIDや解離性という診断そのものを裁判官に受け入れてもらえなかったのだ。
ただし完全責任能力あり(つまり完全に罪が問われること)が認められるにしても、量刑において考慮されることが起きている。つまり減刑される、ということは新しい傾向と言える。また完全型DID(人格間の連絡が不連続なケース)だけでなく不完全型でも量刑の考慮が行われる可能性がある。この完全型、不完全型というのはあまり耳慣れないが、司法精神医学での言葉の使い方であろうか。要するに完全型とは別人格での犯行を全く覚えていない場合、不完全型はある程度把握しているという意味である。
話を戻すが、責任能力の一部が否定された事例はあり、それは3例報告されている。それらを拾ってみよう。
① 2013年、殺意を持って買い物役をナイフで刺した例(診断はアスペルガーとDID)で責任能力が減弱、求刑が懲役8年なのに対して5年が言い渡される。
② 2016年 化粧品や衣類などの窃盗。犯行時にG人格の状態にあり、責任能力が減弱していたとされた。
③ 2017年 覚せい剤使用のケース。「おっちゃん」なる人格に体を乗っ取られて「覚せい剤を使え」という指示に逆らえなかったとして責任能力が減弱していたとされ、執行猶予が与えられた。
さらに知られるのは、2009年の殺人と遺体損壊のケース。このうち後者のみに関して、別の人格状態で行われたとしてそちらは無罪になったという。(もちろん殺人については有罪。)