何日か前に紹介した Sybil Exposed という本。Debbie Nathanというジャーナリストによる丹念な資料の読み込みにより、2012年に発売になった。その内容は極めてセンセーショナルなものだった。Sybil は 実際は Shirley Mason という女性であり、Cornelia Wilbur という精神科医と,Flora Rheta Schreiberという作家の3人の女性による合作がSybilという作品であり、Sybil の多重人格としての症状は結局は捏造であったという大変スキャンダラスな本である。 私も自分自身の専門領域ということもあり、結局実際にこの本を買ってみた。と言ってもキンドルの電子書籍なので、ダウンロードしてすぐ読める。あるネットでの紹介では「むちゃくちゃおもしろく感動的」ということだった。しかしこの本はかなり分厚く、英文で336ページを読みこなす時間はない。 ということで書評なども織り交ぜて少し書こう。まずはSybil の起こしたアメリカでのセンセーションは相当のものであったらしい。 1973年に発売されるやベストセラーになり、それを基にしたテレビドラマにはサリー・フィールドとジョアン・ウッドワードが出演した。(二人ともアメリカでは有名な女優である)。シビルは16人の交代人格を有し、これによりMPD(多重人格)という診断は一躍有名になり、それも関連してか、1980年のDSM‐Ⅲにも掲載されることとなった。(もちろんこれだけが理由ではないが)。 結局この本は一定の役割を果たしたと言える。アメリカでは多重人格について知るためにはSybil を読むのが一番早い、ということになった。そして十分に時間がたった後、すなわち2012年にこの暴露本Sybil Exposed が出て、これがやらせだとわかったのである。 もしこの本がすぐに出たらたちまちMPDは実際にはありえない診断であり、患者は演技をしているということになっただろう。幸い1973年から2012年までの40年足らずの時間でMPDはDIDとなりその臨床像の記載や治療論も進展した。つまり一つの精神疾患として確立したのである。だからこの一例だけですべてのDIDの信憑性が崩れることは起きなかったのである。 しかしこのシビルの問題は、そしてそれとは無関係であるはずのビリーミリガン(こちらはやらせということにはなっていない!!)の問題もいくつかの点を指摘したことになると考える。 1.多重人格の病像を演技により作り出すことで、臨床家を信じ込ませることはできるらしい。少なくともシビルという実例があったことになる。ただしここにWilbur , Schreiber という二人の協力者がいたということで話は一挙に複雑になる。おそらくShirley Masonだけで多重人格を演じることは非常に難しいとしても、そこにWilbur の想像(創造)力が加わればどうなるだろう? つまり私が言いたいのは実際に多重人格を演技して、それを特にバイアスのかかっていない精神科医が長期にわたってフォローした際に、その目を欺くことは可能だろうか、という疑問である。