ところでこの男性性の加害性を論じるうえでどうしても言及しなくてはならないのがブルース・リンド先生の論文だ。
Rind, B, Tromovitch, P, Bauserman, R (1998). "A Meta-Analytic Examination of Assumed Properties of Child Sexual Abuse, Using College Samples". Psychological Bulletin. 124 (1): 22–53.
この論文が問題視されたのは、子供の性的虐待(以下CSA)が男女を問わず極度の外傷となるということが常識とされているが、これに関する59本の論文のメタ分析をしたところ、CSAの犠牲となった学生は一般の学生と比べて適応の度合いが軽度に低かったということを結論付けているからだ。しかもこの軽度の低下は家族環境 family environment のせいであり、そのファクターに比べたらCSAは有意ではない nonsignificant のだという。そして男性の反応は特にその傾向があったという。またCSAの体験者のレポートを読んでも、特にその内容が強烈だったり広範的であったりはしない neither pervasive nor typically intense と結論付けた。1998年に発表されたこの論文は何度か査読で棄却された後に受理され発表されたが、アメリカの両議会でも問題視されたという。そしてこの論文の発表にかかわったアメリカ心理学協会も特別な声明文を出し、CSAの有害性や外傷性について改めて提言する形となったという。
このリンド氏らの論文は、いかにも男性の性加害性について論じる際に火に油を注ぐ内容である。多少のセクハラは・・・という議論を導きやすい危険性を有するからだ。