柴山先生の記述に刺激されて、というわけではないが、解離性幻聴を分類するならば、FB、交代人格由来、に加えて第3のカテゴリーが必要になろう。それは解離の陽性症状としての幻聴である。そしてこれにはいわゆる転換性障害において見られるようなあらゆる幻聴ないしは幻覚が含まれることになる。もちろんそれの一部は、実はその人がDIDを有していて、そこからのメッセージとして送られてくるものであったことが判明するということもあるだろう。この柴山先生の理解はまずはごもっともである。 さて解離性の知覚症状についてのこれまでの文献を調べる作業に並行して、「本文」となる部分を書いていく必要がある。この論文の一つの意義は統合失調症的な知覚異常との鑑別である。 ここでDSM-5を紐解き、解離性の幻覚体験に相当する部分、すなわち「機能性神経症状症」の中の記載を見ると、「感覚症状には、皮膚感覚、視覚、又は聴覚の変化、減弱、又は欠如が含まれる」とあるだけである。ここは実にシンプルだ。というより「何でもあり」という印象を受ける。しかし診断を支持する関連特徴としては、「ストレス因が関係している場合があること」、「神経疾患によって説明されないこと」「診察の結果に一貫性がないこと」(315)などが挙げられている。すなわち解離性の幻覚は、神経疾患で説明されず、浮動性を有する傾向があるという以外には、あらゆる形を取り得ることが許されているのだ。従来は解離性の視覚症状として管状視野(トンネルビジョン)がよく記載されていたが、実際には様々な形を取り得ることを私も臨床で経験している。
幻覚の定義としては「対応する感覚器官への客観的な入力 objective input がないにもかかわらず生じるあらゆる様式 modality の知覚的な体験」(Walters, et al, 2012) Waters F, et al. (2012) Auditory hallucinations in schizophrenia and nonschizophrenia populations: a review and integrated model of cognitive mechanisms. Schizophr Bull. 2012 Jun;38(4):683-93.
幻覚はしばしば深刻な精神病理との関連を疑わせるがlife time 有病率は5.2%とされる(McGrth, et al, 2015)。
McGrath JJ, et al. (2015) Psychotic Experiences in the General Population: A Cross-National Analysis Based on 31,261 Respondents From 18 Countries. JAMA Psychiatry. 72(7):697-705.
その中でも機序として注目されるのが解離性の幻覚である。そして解離性の幻覚体験を有する人にしばしば見られるのがトラウマ体験である。