身体科からの歩み寄り
ところで転換性障害については最近新しい動きが見られる事にも言及しておきたい。それは神経内科の側からも関心が寄せられるようになったことである。そしてICD-11では初めて、FNDが精神医学と脳神経学 neurology の両方に同時に掲載されたのだ。その事情を以下に説明するが、ここからは転換性障害ではなくFNDという表現を用いることにする。というのも脳神経内科ではもともと転換性障害という用語は使われない傾向にあるからだ。
一つには脳神経内科の外来にはFNDを有する患者がかなり含まれるという事情がある。 実際には脳神経科の外来や入院患者の5~15%を占めるといわれる。またFND は癲癇重積発作を疑われて救急を受診した患者の50%を占め、脳卒中を疑われて入院した患者の8%を占めるという(Stone, 2024)。そのため脳神経科でもFNDを扱わざるを得なくなっている。そしてそれ以外の身体化、例えば眼科、耳鼻咽喉科、整形外科などの身体科にも同様のことがいえる。したがって精神科医以外の医師たちがいかに機能性の疾患を扱うかというのは従来より大きな問題だったのである。
また先ほど転換性障害は陰性所見ではなく所見の存在(陽性所見)により定義されるようになったという事情を述べたが、実際に脳神経内科にはHooverテストのように、ある所見の存在がFNDの診断の決め手となるような検査法が知られていることも追い風になっている。
しかしここで興味深いことも起きている。というのも最近神経内科の側からは、「FNDは精神科医がいなくても診断することができる」という主張が聞かれるからである。後に述べるように私はFNDを含むMUSは精神科と身体科の両方からの援助が必要であると考えるが、神経内科の方から、「精神科は要らない」という主張がなされることにはむしろ当惑を感じるのだ。
下畑 享良 (2024) 日本神経学会の機能性神経障害への新たな取り組み 脊椎脊髄ジャーナル 37巻2号 特集 機能性神経障害(FND:ヒステリー)診断の革命