2021年7月10日土曜日

嫌悪 15

 アセチルコリン

 アセチルコリンは少し複雑な動きをする。ネズミの足へのショックを与えると、アセチルコリンの量は海馬では増えるが、側坐核では減るという。側坐核でアセチルコリンが増えるという現象は、ゆっくり開始する嫌悪に関係しているらしい。摂食により徐々に放出されるときは、どうやら胃の膨満感に関係しているらしく、それが食事の快感を抑えるそうだ。だからブリミアの様に吐く場合には、報酬だけになるので、むちゃ食いがそれだけ嗜癖になりやすいというわけだ。そうか。という事は昔の貴族は吐き出すことでいくらでも食を楽しめたわけだ。

 一般に側坐核でのアセチルコリンの増加は、摂食を抑制するというデータは得られている。そして食欲を抑制する薬も側坐核のアセチルコリンを増加させることで効果を発揮するという。という事は「もうお腹いっぱい!」という時におこっているのは、報酬系におけるアセチルコリンの放出なわけだ。それに関して重要だが、かなりあいまいさを含んだ記述がある。「摂食と同時に塩化リチウムにより吐き気を催させると、側坐核のアセチルコリンが増えてその味が嫌悪刺激になってしまう。だから食べ物は状況次第で側坐核にドーパミンを出させたり、アセチルコリンを出させたりして、好きになるか、嫌いになるかを決定してしまうという。」また側坐核にアセチルコリンを増やすような薬は、薬物中毒の治療にも使われるという。そしてどうやらここで重要なのは、アセチルコリンやドーパミンの絶対量ではなく、両者の比が決め手ではないかという事になる。これが例の「D/A比」の話につながる。
 側坐核にアセチルコリンを増やすような薬は、薬物中毒の治療になる。ヤクをやりたいという気持ちを低めるからだ。ナロキソン、すなわちオピオイド遮断物質は、側坐核でドーパミンを減らすこととアセチルコリンを増やすことを同時に行うという。アルコールやニコチン離脱でもこのような状態が起きる。そして次の記述が面白い。「急にニコチンやコカインを与えると、アセチルコリンが上昇するが、それよりもっと大きな上昇がドーパミンでみられる。」結局「D/A比」が大きくなるので快感を生むのである。
 抑うつ状態ではおそらくアセチルコリンの量は高いままでドーパミンが減少し、この比が小さくなるらしい。抗うつ剤はこのアセチルコリンの値を減らすという効果があるらしい。そしてセロトニン1A受容体を介する薬はこの効果を生み出すという。