2021年7月11日日曜日

嫌悪 16

オピオイド

 ストレスフルな刺激で、ドーパミンと同様 μ(ミュー)オピオイドの伝達も高まる一方では、慢性的な嫌悪刺激では μ のダウンレギュレーションが起きる。後者については、慢性疼痛などで内因性オピオイドがずっと出続ける結果であるという。ある研究ではそこに κ(カッパ)オピオイド・ダイノルフィン・システムが関与しているということだ。こちらの方は興奮することで μ と違い不快感を生むという。だからこの拮抗物を用いると不快刺激による効果が軽減されるという。
 そこでダイノルフィンは何か。内因性オピオイドの一種で、最近これが脊髄から出て痒みを抑制すると報告されている。ダイノルフィンは κ オピオイド受容体に結合する物質であり、ドーパミンニューロンを抑制するという。だからこれが多くなるとドーパミンを抑制することで抑うつになる。鬱や「学習性の寄る辺なさ learned helplessness」ではこのダイノルフィンが上がるという。だから嫌悪状態を治療するためのターゲットとなっているというのだ。それとは逆に鬱ではμが不活発になっている。ということは両者は拮抗関係にあるということらしい。ということで今度は「μ/κ 比」なるものが問題になるらしい。おいしいものの無茶食いで起きることは、島皮質における β エンドルフィンの低下とμ受容体の結合能の低下であるという。そしてμの拮抗剤であるナロキソンは無茶食いを抑制する。そしてある研究では無茶食いの際には側坐核におけるエンケファリンの遺伝子表現が低下しているという。また無茶食いの逆の拒食症の場合には、β エンドルフィンのレベルが低下しているという。そしてそれが示しているのは、過食や拒食による嫌悪状態では、オピオイド系の失調が考えられるということだ。
 およそあらゆる違法ドラッグは、内因性オピオイドの失調をきたす。コカインやアルコール依存症では、節制によりμ受容体の上向き制御が起きるが、その程度はまさに渇望に比例する。これは薬物を使用することで内因性オピオイドの伝達が低下したことを代償しているのだという。たとえば動物にアルコールを与えると、最初は β エンドルフィンが上がるが、何度もアルコールを与え続けるとそれが下がってくる。
 薬物の使用により、側坐核や関連した線条体の部位にダイノルフィンの活動を誘発する。そしてそれが薬物使用による不快を生むという。オピオイドの作動薬や拮抗薬は「D/Aバランス」に影響を与えることで快感や不快感に関与している。μの作動薬であるモルフィンは側坐核のドーパミンを上昇させてアセチルコリンを減少させるが、μ の拮抗薬であるナロキソンはそれと逆の結果を生み出す。同様に、オピウムの拮抗薬はアルコールによる側坐核のドーパミンの放出を抑制する一方ではアセチルコリンの量を高める。このようなドーパミン系の影響は、報酬状態における腹側被蓋野におけるドーパミン細胞の μ によるGABAの抑制の抑制(つまり脱抑制)によるものである。それとは逆に、中枢のアセチルコリンは線条体へのダイノルフィンの注入により上昇し、μ の急激な刺激により減少する。まとめるならば、急激な嫌悪刺激はオピオイドシステムを活性化させるが、慢性の刺激はダイノルフィンを介して μ を下げ κ を上げるということである。そしてそれが「D/A比」に影響を与えるというわけだ。