2021年7月4日日曜日

嫌悪 12

 少しずつ嫌悪についても見えてきたような、そうでもないような。こんなことが起きているらしい。まずゲーッとなる際に扁桃核は重要な意味を持つ。蛇でそうなるとすれば、蛇細胞が扁桃核にできている。蛇を目の前にして、扁桃核の蛇細胞が「ゲーッ」という反応を起こしてアラームを鳴らす。すると脳のいろいろな部位が反応する。快感のように一か所ではない。おそらく嫌悪反応は、生命体にあまりに重要なために、脳全体が反応するようにできているのだろう。その意味で「嫌悪中枢」というのは考えにくいのだろう。そして脳の様々な部位のうち手綱核と前帯状皮質、脳下垂体なども関与していることが研究の結果わかってきた。そしてこの嫌悪反応には一種の記憶のようなものが関与している。一度嫌悪刺激があると、それが重なることを記憶している部位があり、前帯状皮質などはその蓄積を行動に反映させているわけだ。でも「だから?」という感じ。脳の嫌悪系の仕組みの全体像を知りたくても、ジクソーパズルのピースがいくつか見つかっただけで、依然としてその全体像は見えてこないという印象を持つ。

もっとほかの研究はないかな、と探しているうちに、報酬系の研究も見つけた。

「私たちの行動や運動における“やる気”は、予測されうる報酬の量により、強く影響を受けます。しかし、これまでの研究では、脳のどの部位が報酬の量を予測して、行動・運動に結びつけるのか、よく分かっていませんでした。自然科学研究機構生理学研究所の橘 吉寿助教は、米国NIH(国立衛生研究所)の彦坂 興秀博士と共同で、サルを用いた研究によって、大脳基底核の一部である腹側淡蒼球と呼ばれる部位が、この過程に強く関わることを明らかにしました。米国神経科学誌NEURON(11月21日号電子版)に掲載されます。」 

 つまり淡蒼球という部位は、サルがやる気を出すとより強く興奮するという研究。「淡蒼球はやる気スイッチだ」という話の意味が少しわかった気がする。大脳基底核は系統発達的にかなり古い部位だ、ということは同様のシステムは進化の過程でかなり早くから備わっていたということであろう。

この所見は、いわゆる快の先取りの問題に関係しているだろう。私たちは将来得られる快の大きさを前もって査定する。その大きさに従って行動を決める。ABの両方の選択肢が快を保証してくれるとしても、Aの方が大きければ、そちらの方を選ぶような行動を起こすだろう。そのようなシステムが脳の古い部位に備わっているということか。すると当然ながら嫌悪に関しても、それを予想してより強く回避するようなシステムが存在していることになるだろう。それはこの淡蒼球とは違う部位なのだろうか? うーん、結局謎が深まるばかりだ。