2019年10月24日木曜日

べき乗則が支配する 推敲 5


ここに示した画像[省略]をご覧いただきたい。これは銅の結晶である。高熱で溶けた銅を水面で冷やすと、結晶が出来て表面に広がっていく。ちょうど雪の結晶が形成されるのと似ている。ウィッテンとサンダーのゲームWitten and Sander’s game というのが、この画像に示されるような現象をさすというのだが、これは「拡散律速凝集」Diffusion-limited aggregation (略してDLA)と呼ばれるそうだ。
最初に水面のどこかに小さいチリなどがあり、そこを核として銅が固化すると、あとは近くの分子が次々とくっついていく。そしてこのような木の枝のような形が形成されていく。拡散律速、とは、銅の分子がまばらに、拡散された形でそれまで出来かけた結晶にくっついて成長する仕方が律速段階になっているという意味であるという。つまりその成長はスピードに制限がかかっていて、地震やガラスが割れる時のように一気にバタバタッと起きるという形はとらないという意味だ。これはコンピューターでも簡単にシミュレーションを行うことが出来るという。
さてこのDLAがべき乗則にしたがった形成のされ方をするというのだ。その結晶の形成のされ方は、まさに地震の際の最初の砂粒の動きから始まるという様子とそっくりである。中央の最初の結晶が生まれた部分を拡大して見ると、最初の一点から枝分かれが生じていることがわかる。この写真を見る限り、初期に4つの枝分かれがあったようだ。そしてそれぞれの枝がどんどん広がって出来ていった様子がわかる。時間としてはかなりゆっくりで、最初の点からじわじわ広がっていく様子は、コンピューターのシミュレーションの動画からもわかる。
さてここで何がべき乗則にしたがっているかと言えば、その枝の大きさである。小さい枝は限りなく多く、そのサイズを大きくしていくと、数は急速に減っていく。最後にはこの全体が一つの巨大な枝として出てくるわけだ。そしてその枝を大きさの順に並べると、ロングテールが出来上がる。さてこの場合のべき乗則はそこに巨大な連鎖反応と呼べるような出来事は起きていないようだ。ここに見られる大物は、最初に枝分かれをして、あとは途切れることなく枝を伸ばすことが出来たもの、ということになる。
 この、最初は偶然一つの塵についた分子から結晶が始める様子をさらに詳しく見るためには、Paul Bourke 氏がネットに公表している図(DLA - Diffusion Limited Aggregation)が参考になる。

この図の枝の形成は、上から分子が降ってきて地面で形成されていくという形式を取っているが、それ以外は銅の結晶の形成のされ方と同じである。ほとんどが小さな枝で終わっているのに、時々巨大な枝が形成され、それが冪乗則に従っているというわけだ。これほどきれいなモデルがあるだろうか。そしてこれと類似のことがこの世界で起きていると考えることができるわけだ。