イギリスの脳科学者 Elaine Foxの「Rainy Brain, Sunny Brain: How to Retrain Your Brain to Overcome Pessimism and Achieve a More Positive Outlook , Basic Books, 2012」が話題である。日本語でも「脳科学は人格を変えられるか? 文芸春秋, 2014 という題で発売されたし、最近ではNHK Eテレ『心と脳の白熱教室』(2015年7月24日(金)23時~)にも著者本人が登場した。私も見て大いに学んだ。 本書の英語の題である “Rainy Brain, Sunnyはこのままだと雨の日の脳”、晴れの日の脳、ということだが、要するにいつも晴れの天気のような楽観主事な人といつも心配事や悪い予測をしている悲観的な人との差はどのように生まれるか、という研究の本である。
私たちの中には、確かに楽観的な人と悲観的な人がいる。私は地下鉄の駅をできるだけ小走りで駆け下りるようにしているが、それはいつも地下鉄が私がホームについたとたんにドアが閉まるようにできていると確信しているからだ。だから少しでも早く降りてそのような体験を回避しようと思うが、地下鉄の方が一枚上手である。私が駆け下りるのに合わせて、向こうも一瞬先にドアを閉めるように計算しているらしい。日本の地下鉄網はなんと用意周到なのか・・・・。ナーンテ思うとしたら、私は「雨の日の脳」ということになる。
まあこれほど極端ではないにしても、ネガティブなことにことさら目を向けて、「俺はどうせダメなんだ」という人と「うん、やはり俺はモッテいる」と思う人の二通りがある。(と言っても話の都合上こう言っているだけで、大部分はその中間のどこかだけどね。) 同じことが起きても、人によっては全然気にしないことでも、別の人はくよくよ悩む。これを心理学では認知バイアスcognitive bias という。これは結構大事な概念で、ある種の認知のゆがみが人を鬱にしたり、死にたい気持ちにさせたりするという理論に関連する。実際に認知療法が鬱の精神療法の第一選択と考えられるのも、いかにこの認知と気分の問題が関係しているかの証明と言えよう。ウィンストン・チャーチルはこう言っているそうだ。悲観論者はすべてのチャンスに困難さを見出し、楽観論者はすべての困難にチャンスを見出す。A pessimist sees the difficulty in every opportunity, an
optimist sees the opportunity in every difficulty”
エレイン・フォクスはこのうち悲観的な脳とセロトニン・トランスポーター(ST)遺伝子との関連について述べる。ST遺伝子とは要するに脳のセロトニンの量を調節する遺伝子だと思えばいい。これは短い遺伝子(S)と長い遺伝子(L)があり、二つの短い遺伝子(SS)を持つとセロトニンの量が低下し、二つの長い遺伝子(LL)だと量が増大する。ものすごーく省略していうとそういうことだ。するとSLを持つ人は中間ということになるだろう。
さて、興味深いのはSSの人がLLを持つ人に比べて余計鬱になりやすいかというとそういうことはなく、うつになる比率は変わらない。問題は人生上のストレスが3つ以上重なった時にSSの人はLLの人よりはるかに鬱になりやすいという研究結果があるということだ。