2022年7月6日水曜日

パーソナリティ障害 概論 6

テクスト的な文章は、自分の頭で考えなくていいので、ラクである!!  

現在の精神医学におけるパーソナリティ障害の分類及び診断をめぐる議論の趨勢は、従来のいわゆるカテゴリカルモデルから、ディメンショナルモデルに向かいつつある。カテゴリカルモデルとは、正常とは画然と区別されるべきいくつかの典型的なパーソナリティ障害を同定して列挙するモデルであり、ディメンショナルモデルとは、パーソナリティ障害における特性ごとにその度合いを数量的に捉え、その組み合わせにより示すという方針である。このどちらを選ぶかにより、診断の仕方は大きく異なることになる。本稿ではその両方についての主要な論点を紹介する。

カテゴリカルモデルに基づく診断

2013年に発表されたDSM-52)では、予想に反してこれまで通りのカテゴリカルモデルが前面に示され、準備されていたディメンショナルモデル寄りのモデル(より正確には「ハイブリッドモデル」)は、「III. 新しい尺度とモデル」の中に「パーソナリティ障害群の代替モデル」として掲載されるにとどまった。

他方では2018年に原案が示され、現在世界的に使用が開始される予定のICD-11においては、ディメンショナルモデルが全面的に採用された。このDSMとICDの明確に異なる方針は、PDをめぐる現在の識者たちの意見の相違をそのまま表しているともいえる3)。ただしこのことはこれまで十分なエビデンスの支えもなく論じられてきたPDの概念が、より現代的な姿に生まれ変わるために必要なプロセスとも考えられよう。さらには最近極めて頻繁に論じられる発達障害とPDとの関係性をめぐる問題も今後絡んでくる可能性もある。

まずDSM-5の概要を示そう。

DSM-5第Il部では、基本的にはDSM-Ⅲより引き継がれている10の類型が、1987年のDSM-IIIR)以降3群のクラスターによって分類されるのが慣例とされている。更に詳しくは以下の特徴を示す(訳はDSM-5日本語版big book)

以下のパーソナリティ障害が含まれる .

A群 (奇妙で風変わりな特徴を持つ)

・猜疑性パーソナリティ障害Paranoid personality disorder他人の動機を悪意あるものとして解釈するといった,不信と疑い深さを示す様式。

・シゾイドパーソナリティ障害 schizoid personality disorder 社会的関係からの離脱と感情表出の範囲が限定される様式。

・統合失調型パーソナリティ障害Schizotypal personality disorder 親密な関係において急に不快になることや,認知または知覚的歪曲,および行動の風変わりさを示す様式.

B群 (演技的で情緒的で、移り気な性質により特徴づけられる)

・反社会性パーソナリティ障害Antisocial personality disorder 他人の権利を無視する,そして侵害する様式。

・境界性パーソナリティ障害  Borderline personality disorder対人関係、自己像および感情の不安定と、著しい衝動性を示す様式。

・演技性パーソナリティ障害 Histrionic personality disorder 過度な情動性を示し,人の注意を引こうとする様式

・自己愛性パーソナリティ障害Narcissistic personality disorder 誇大さや人から賞賛されたいという欲求,共感の欠如を示す様式。

C群 (不安や恐怖により特徴づけられる)

・回避性パーソナリティ障害 Avoidant personality disorder社交的な抑制,自分を不十分と感じ、否定的評価に対する過敏性を示す様式。

・依存性パーソナリティ障害 Dependent personality disorder世話をされたいという過剰な欲求に関連する従属的でしがみつく行動をとる様式。

・強迫性パーソナリティ障害Obsessive-compulsive personality disorder秩序,完壁主義,および統制にとらわれる様式 .

2022年7月5日火曜日

解離性と他者 あとがきに代えて

 あとがきに代えて

一冊の本を書き下ろすということには長い準備期間が必要となる。全体の構成を考え、必要な資料を集め、執筆にとりかかり、何度も推敲を繰り返す・・・・。いわばそのために他の活動の手を休める「ダウンタイム」が必要になる。

しかし臨床や教育に携わる者にはその余裕がない。依頼された講演や大学の講義の準備があり、各種の執筆依頼に応じた論文を書き、また日々の臨床があり、その臨床に関係した必要書類の作成も膨大である。すると著書の作成はいくつか書いた原稿や講演のために作成したパワーポイントのうち同様のテーマがたまってきて自然に出来上がっていくという形となる。いわば「行き当たりばったり」である。

私が発表したこれまでの著作は結局はそのようにして出来上がってきた。しかしそれだと著書は単なる論文の寄せ集めに近いものになりかねない。そこで与えられたテーマの範囲が緩い場合には、それとなく一つのテーマに寄せて書くという工夫をすることになる。またその当時考えていたテーマが講演や論文に影響を与え、結果的にその時期に書いたものが似たようなモチーフを含むようになる。

「解離性と他者」というテーマの本書もそれらの結果と言っていい。他者とは何か。無意識とは結局他者ではないか。長年連れ添ったカミさんはいかにいまだにつかみどころのない「他者」ではないのか。小さいころから育て上げた子供は結局どんどん「他者」になり遠ざかっていく・・・・・。一方で解離の臨床を続けつつ、他者について考え続けていたこの時期はまさに本書の各章に現れている。退官記念講演もそちらに寄せられ、学会で企画に参加した対談も、結局はそちらに「我田引水」してしまっている。そうしてその結果として生まれたのが本書である。

本書の作成にあたり、まとめなおしてバラバラだが重複した内容の多かった各章をかなり強引に著書としての体裁を与えた感もある。大きな影響を受けたフェレンチなどは何章にもわたって顔を出す。しかしとりあえずは章ごとにテーマをまとめて論じることだけはできているようだ。

思えば全書からいろいろ悪戦苦闘した2年間だったがこのように一緒にまとめることが出来てほっとしている。一読した臨床関係者やクライエントさんにとって何らかのヒントになれば本望である。

 

2022年7月3日日曜日

治療者の脆弱性 推敲 4

  そしてそこで結局一番何が見えにくいかということで問題となるのが、自己愛的な脆弱性という問題が出来ます。一番見えない脆弱性としての「自己愛性脆弱性 narcissistic vulnerability」あるビニエットを紹介します。どこかに書いたかもしれません。
 ある精神分析家がセッション中に居眠りをしてしまい、手の力が緩んで持っていた鉛筆が床に落ちてカラーンと落ちてしまった。患者は「寝ていましたね」と言い、治療者はとっさに「そんなことはありませんでしたよ」。そしてそれ以上は決して自分の立場を譲らなかったそうです。その分析家の慌てぶりから、おそらく彼女はふと眠りそうになったことを否認しているのであろうと感じられたと言います。それで患者はかなり分析家を信用できないということが続いたということでした。
 私がはるか前に翻訳した「ある精神分析家の告白」という本の作者であるドクター・ストリーンは、一度話してくれたことがある。治療者として患者の前で居眠りするということは自分のプライドが許さないと言っていました。
 以上をまとめると「逆転移の問題は常に「靴のつまみ bootstrap」問題をはらむ。治療者はいか様にも自分の自己愛脆弱性は最後の最後まで隠しとおすことが出来るからだ。」ということで、そのために治療者は「外部」ないしは「他者」の目を必要としているということです。ただし私は治療場面においても外部性は常にあるのだと思います。それはお互いの存在と言ってもいいでしょう。自分を持ち上げるためには他者を足場にするしかない。それを避ける一つの方法は、ある意味で患者との対等な位置を築くことである。一つの例として、ビーズの稲葉氏が語っていたことがあります。

 B’Zの松本孝弘と稲葉 浩志との関係。二人がどうしてうまく行っているのか。相手が全然予想もないことを言ってくるからだそうです。つまり他者であること。そしてそれを受け入れること。これが大事らしいのです。

治療者の脆弱性 推敲 3

 更に現代的な考えでは、自分の逆転移を克服するという考え自体が誤謬をはらんでいるのだと言われる。これはもう少し広げて言えば、それが靴のつまみ問題と言われるものだ。自分が自分の無意識部分を知るというのはそもそも不可能なことではないだろうか、という本質的な問いがあるのだ。

この問題はそもそも自己分析の問題につながる。フロイトは自分の夢を無意識からの知らせだと考えた。それを解明することで無意識を知ることが出来ると考えた。それは無意識が私たちの主観とは異なる客観性を、ないしは外部性を担っていると考えたわけだ。たとえば私たちは血液検査をして肝臓の値が高いことで、肝臓の異常を知ることが出来る。それと同じようなものだ。私達は心理テストの投影法を用いるとき、なんとなくそのようなことを考えているかもしれない。しかし現代の私たちの多くは、実際無意識はそれほどの客観性を持っていないことを知っている。例えば空を飛んだ夢を見ても、それが表す可能性のあるものはいくらでもあり、非常に恣意的なものということになる。この様な原理的な問題に加えて、もう少し実質的な問題がある。それは自分に関することで否認したり見ないようにしていることを探し当てましょうという試み自体が失敗する運命にあるわけです。これ以上は見たくない、という意識できるぎりぎりのところで私達は自分自身にストップをかけるからです。だから一番認めたくないことは見ていない。このことをミッチェルと言う人が実にうまい言い方をしたのです。それは人間の持っている「靴のつまみ問題 bootstrap operation」なのだ、と。私達は自分たちの体を持ち上げることが出来ない。靴のつまみを引っ張っても全身が浮くことがない、というわけです。これをドネルスターンと言う人は、目は自分の目を見ることが出来るか、という形で同じような問題提起を行っている。ただしスターンの図式では一人では見えないけれど、治療者と患者の間で生じたなにかはその証になると考えました。それがエナクトメントだったわけです。


2022年7月2日土曜日

パーソナリティ障害 概論 5

 疫学部分について書き始めた。依然として林先生への依存度が高い。

PDに関する疫学的なデータはまだ十分とは言えないが、それはPDの疾病概念や定義、分類などに関する識者の意見が一致していないこととも深く関係している。ただしディメンショナルモデルに従えば、特性についての疫学的な研究の蓄積もあるため、PDの遺伝との関りはより明らかに示される。一般的にはPDの基礎には遺伝的要因が深く考えられる。PDの特性領域の遺伝性は約50%とされ、また特性側面はそれより低いと言われる(赤134)(特性領域と特性側面の両者の区別は大切である)。

Jang,KL, Livesley, WJ, Vernon, PA et al.(1996)Heritability of personality disorder traits: a twin study. Acta Scand 94: 438-444
ここら辺はやはり林直樹先生のまとめから借用することになる。Torgersen の双生児研究では、PDの遺伝率は0.5~0.6%とされる。林先生はSilverman の家族研究のデータも挙げている。ディメンショナルモデルへの注目はこのような見方をさらに裏付けるものと思われる。また反社会性、ボーダーラインでのセロトニン系の機能低下ということが言われている。以下が引用文献。

 Torgersen S, et al. (2000) A Twin study of personality disorders. Compr Psychiatry .  41 (6): 416-425.

Silverman JM, et al (1991) Affective and impulsive personality disorder traits in the relatives of patients with borderline personality disorder. Am] Psychiatry 148: 1378-1385.

そしてもちろん同様に重要なのは環境因であり、そこに虐待の問題が絡んで来る。1990年代にはBPDの成育史の後方視的研究が行われている。これについては「林直樹(2010)境界性パーソナリティ障害の成育歴・現病歴・家族関係 精神科治療学.25:1459-1463」という優れた論文があるので、これを引用しない手はないだろう。また最近ではCPTSDの話題が尽きないが、これなどはPDと生育環境の直接的な関係性を論じていることになるだろう。

2022年7月1日金曜日

パーソナリティ障害 概論 4

 ギャバードの述べる9か条( )内に私自身の短いコメントを入れる。これはBPDの治療だけでなく、パーソナリティ障害一般に言えることであろう。

柔軟性を保持すること。(岡野の「治療的柔構造」に相当する)
精神療法を実行するための条件を確立すること。(外部資源を用いた安定性、すなわち治療構造を確立すること)
受け身的なスタンスを回避すること。(治療者は受け身的なままにとどまらず、積極的に患者が見ようとしていないものに目を向けることを促す)
悪い対象への変形を許容すること。Allow transformation into the bad object. (患者は器質的に少しのトリガーにより反応しやすいところがある。BPDの患者は”bad-enough” object 「程悪い」対象を求めていて、治療者は成人君主のままでいたいという願望を放棄する必要がある。)
怒りの奥にある痛みに共感すること。(患者からの挑発に怒りで返すことは、BPDの患者さんの繰り返した対象関係に加担することになる。その背後にある傷付きに注目すべきである。従来の考え方では、患者が本来有する攻撃性の解釈が有効であるとされるが、これには例外がある。特にトラウマを受けた患者さんの場合はその傷がいえることが第一の目標となる。)
メンタライゼーションを促進すること。(ギャバードさんによれば、そのために患者さんの治療者に対する挑発的な言動について、それを詳しく尋ねるという例を挙げている。)
必要な時に限界設定を行うこと。
患者が否定したり他者に投影したりした自己の側面を再び所有できるよう患者を援助すること。
治療同盟を確立し、維持すること。(これが非常に大事である。いかに治療関係が危うくなっても、基本にある関係性が重要である、ということだが、逆に言えば治療同盟が確立できる患者さんほど治療の可能性が高いということか?)
逆転移感情をモニターすること。(ただしもちろんこれが常に可能だということは保証されない。)

2022年6月30日木曜日

パーソナリティ障害 概論 3

 書き写すだけで一回分!

 境界パーソナリティ障害の治療として有効性が確かめられているのは、ギャバードさんの本によると7つあるという。ここはそのまま写したくなってしまう。それらはメンタライゼーションに基づく治療 mentalization-based therapy (MBT, Bateman and Fonagy, 2009),転移焦点づけ療法 transference-focused therapy (TFP, Clarkin et al. 2007),弁証法的行動療法 dialectical behavior therapy (DBT, Linehan 2006),スキーマ焦点づけ療法 schema-focused therapy (Giesen-Bloo et al. 2006),情緒予見性と問題解決のためのシステムトレーニング Systems Training for Emotional Predictability and Problem Solving (STEPPS, Blum et al. 2008),一般精神科マネジ メント general psychiatric management (GPM, McMain et al. 2012), 力動的脱構築精神療法 dynamic deconstructive psychotherapy (DDP, Gregory et al. 2010)が含まれる。

Bateman A, Fonagy P (2009) Randomized controlled trial of outpatient mentalization-based treatment versus structured clinical management for borderline personality disorder. Am J Psychiatry166:1355-1364.
Clarkin, JF, Levy KN, Lenzenweger MF et al (2007) Evaluating three treatments with borderline personality disorder: a preliminary mu1ti-wave study of behavioral change. Am J Psychiatry 164:922-92.
Giesen-Bloo J, van Dyck R, Spinhoven, P. et al (2006) Outpatient psychotherapy for borderline personality disorder: randomized trial of schema-focused therapy vs. transference-focused therapy. Arch Gen Psychiatry 63:649-658.
Blum N, St.John D, Pfohl B et al (2008)
Systems Training for Emotional Predictability and Problem Solving (STEPPS) for Outpatients With Borderline Personality Disorder: A Randomized Controlled Trial and 1-Year Follow-Up. Am J Psychiatry. 165: 468–478. 
McMain SF, Guimond,T, Streiner, DL., et al. (2012) Dialectical behavior therapy compared with general psychiatric management for borderline personality disorder: clinical outcomes and functioning over a two-year follow-up. Am J Psychiatry 169:650-661.
Gregory RJ, Delucia-Deranja, E, Mogle JA (2010) Dynamic deconstructive psychotherapy versus optimized community care for borderline personality disorder co-occurring with alcohol use disorders: 30 months follow-up. J Nerv Ment Dis 198:292-298.
Linehan MM, Comtois, KA, Murray, AM. et al. (2006) Two-year randomized controlled trial and follow-up of dialectical behavior therapy vs. therapy by experts for suicidal behaviors and borderline personality disorder. Arch Gen Psychiatry 63:757-766.