2026年8月15日土曜日

AIは人間の無意識に迫ることができるか? 3

 ここで興味深いのは、AIがどの程度「行間を読む」ことができるかについて、すでに実証的研究が存在することである。2024年に Nature Human Behaviour に発表されたLLMのTheory of Mind研究では、間接的な意図、皮肉、誤信念、社会的な失言(faux pas)など、字義通りの理解だけでは十分に答えられない課題が用いられた。GPT-4は多くの課題で人間と同等、あるいは一部ではそれ以上の成績を示した一方、faux pas 課題ではより困難を示した。 もちろん、これはAIが人間と同じ意味で「心を理解している」ことを証明するものではない。しかし少なくとも、LLMが文章の字面だけを処理しているのではなく、明示されていない意図、文脈、話者の心的状態について推論することができることを示唆している。 ただし、ここで私はあえてAIの役割を、前意識的な内容に光を当てる sounding board にとどめたい。 これは単なる能力上の限界ではなく、精神分析的には重要な原則にかかわる。 もしAIが、私たちが求めてもいないのに、「あなたが本当に感じているのはこういうことです」「あなたの無意識にはこのような欲望があります」と積極的に解釈し始めたとしたら、そこには別の問題が生じる。問題は、AIがその解釈を「発見した」かどうかではなく、誰がAIに私たちの無意識を定義する権限を与えたのかということである。 そもそも精神分析における無意識的な意味は、地中に埋まった物体のように、すでに完成した形で存在し、それを分析家が掘り出せばよいというものではない。少なくとも現代の精神分析的な立場からは、その意味は患者の連想、分析家の応答、そして二人の関係の中で徐々に formulated され、場合によっては co-constructed されていくものと考えることができる。 したがってAIに期待すべきなのは、私たちの無意識が何であるかを権威的に教えてもらうことではないのかもしれない。 むしろAIは、私たち自身がそれを発見するための手助けをすることができる。 AIは、私たちの無意識を代わりに発見する必要はない。私たちが自分自身の無意識を発見することを助ければよいのである。 逆説的に言えば、 AIが最も精神分析的でありうるのは、私たちを勝手に精神分析しないときなのかもしれない。