2026年7月8日水曜日

甘え 推敲 2

 土居の甘えの理論は初めての渡米の際のカルチャーショックに端を発していると言われる。そしてその体験は「甘えの構造」にしっかり書かれている。そこを引用するならば以下の通りだ。  初めての渡米(1950年,30歳)で知人宅で「あなたはお腹がすいているのか、アイスクリームがあるのだが」と聞かれ、お腹は減っていたが、いきなり初対面の相手にお腹がすいているとも言えず、「すいていない」と返事をすると、「あー、そう」で終わってしまった。日本人なら、お腹がすいているかなどと不躾に聞くことはせず、何かあるものを出してくれるのに‥‥と思ったそうある。 「甘えの構造」には同様の経験が書かれており、そこで彼が思ったこともかなり批判的な口調で書かれている。それらを引用しよう。

  • 「アメリカの精神科医は概して、患者がどうにもならずもがいている状態に対して恐ろしく鈍感であると思うようになった。言い換えれば彼らは患者の隠れた甘えを容易に感知しないのである」(同、p.16)

  • 「[米国では]精神や感情の専門医を標榜する精神科医も、精神分析的教育を受けたものでさえも、患者の最も深いところにある受け身的愛情希求である甘えを容易には関知しないという事は、私にとってちょっとした驚きであった。文化的条件付けがいかに強固なものであるかという事を私はあらためて思い知らされたのである。」(同、p.16)


 どうだろう。これはかなりアメリカ人に喧嘩を売っているような表現と言えないだろうか。これらを読む限り、土居はかなり文化的なバイアスがかかった物言いをしていたことがわかる。ある意味では反米的で、渡米したころからかなり挑戦的であったことがわかる。しかしそれでいてとても英語が堪能で、早くから海外に出ることを考えていらっしゃった人でもある。
 土居のアメリカ人に対する批判には歯に衣着せないものも含まれる。ある時メニンガークリニックに久しぶりに訪れた土居先生は、聴衆に向かって、「久しぶりにアメリカに来てみたら、太り過ぎの人がとても多くなってびっくりしました」と言ったという。すると聴衆の何人かの該当者は、席を立って帰ってしまったという逸話を聞いた。そういうところがあるのである。「甘えの構造」はさっそく英訳されて海外でも読まれるようになったが、これらの引用部分など、米国人が皆どんな思いで読んでいるのかとひやひやするところがある。