2026年7月6日月曜日

解離とリスク 5

  こでBPDやPTSDにおける自殺傾向と、解離性障害における自殺傾向とではかなり異なる意味合いを持っているということを図を使って説明したいと思う。この図にある通り、BPDやPTSDやアルコールによる酩酊自殺傾向は何らかの生活上のトリガーにより賦活される。しかしこの自殺念慮は多くの場合、彼らの意識からそれほど遠くないと見ていい。

 この生活上のトリガーとしては様々なものがあり、配偶者との口論から一気に強い自殺念慮に見舞われる場合や、ネット上での中傷を受ける、試験や投資に失敗するなどの例が挙げられる。しかし時には何の前触れもなく抑うつ的な気持ちになったり、夜寝付かれずにネガティブなことを考えているうちに自殺願望が頭をもたげてくることもある。アルコールによる酩酊などでは、情緒的に非常に不安定になった挙句に衝動的に自傷や自殺行為に及ぶという場合もある。

 ところが解離においてはかなり事情が異なる。それは「自殺傾向を有する人格」という形を取り、普段は解離というカプセルに入った状態である。その保護膜は厚く、それがいたずらに賦活されないように守られている。そしてこのカプセルは、それ以前に自殺企図が生じた際に、それ以上の暴発を抑えるために冷凍保存している可能性があるのだ。

 ただし生活上のトリガーの種類によってはかえって容易にその人格が賦活されることがある。それがおそらく解離における自殺企図の多さに表されるであろう。しかしそれはまたほかの保護的な人格の牽制を受ける事になる。 

 そしてこの図が表していることは二つある。一つは解離のカプセルの存在が自殺傾向を誘発しているのではなく、自殺傾向の結果としてカプセルが出来上がっているということ、そして二つ目はほかのカプセルがその自殺傾向をけん制している可能性があるということである。


臨床例)

<中略>

Bさんのケースでは解離は既遂自殺を促したのか、それともそれを数年間遅らせたのか?

最後に本発表の結論を示す。

  • 解離においては頻回に自殺企図が見られるが、解離がそのの原因になると信じる根拠はない。

  • 解離は自殺にとっての危険因子でありうるが、少なくとも保護因子としての意味を有するであろう。

    • もし実際にDIDにおいては自殺未遂に比して既遂自殺が少ないのであれば、その証左となる可能性がある。

  • 解離の機制は障害であると同時に能力や創造性としての側面を持つことを明らかにすることはDIDの患者に対するエンパワメントにつながる可能性がある。