2026年5月24日日曜日

ストレスとDID 18

 解離の病理を説明する差異感受性モデル

 解離現象について、それを症状としてよりは能力として理解する際には、ストレス―脆弱性モデルとは異なるモデルがより当てはまるものと考えるられる。それがいとも簡単に子供の人格が現れること これも一種のプラスティシティではないか?それがDSモデル(differential susceptibility / biological sensitivity to context) である。Belsky & Pluess らの2009年の論文によると以下のようになる。「ある人々は不利な環境により傷つきやすいだけでなく、良い環境からもより大きな恩恵を受けやすい」。 Boyceという学者 も、差異感受性は気質・生理システム・脳回路・遺伝・エピジェネティクスなど複数レベルの生物学的調整に根ざすと整理している。私が関心を寄せているA.Schore 右脳精神療法の考え方と統合するならば、以下のようになるという。「早期愛着は右脳情動調整系を形成する。しかしその形成のされ方は、子どもの遺伝的・生物学的感受性によって大きく異なる。」  話をDIDに戻すと、DIDは単にトラウマの結果ではなく、トラウマと解離的に心を組織化する能力との相互作用の結果として理解できる。あえてキャッチフレーズ的に言えば「トラウマ決定論から差異感受性モデルへ From Trauma Determinism to Differential Trauma Susceptibility」となる。

Boyce WT.(2016) Differential Susceptibility of the Developing Brain to Contextual Adversity and Stress. Neuropsychopharmacology. 41(1):142-62. 

Belsky, J., & Pluess, M. (2009). Beyond diathesis stress: Differential susceptibility to environmental influences. Psychological Bulletin, 135(6), 885–908. 


 結局トラウマ的な刺激に対してDSはある種の感受性の高さを想定する。そしてこれが非常に高いと解離が起きる。しかしBelskyの理論のいいところは、この感受性はいい方向にも働くと言っているところだ。そしてこれが解離は能力でもある、という視点にもつながる。それはどういうことか?

解離とは環境ストレスに対する並外れた反応と考えることができる。それは心に一種の相転移のような反応を起こすということだ。  Belsky らのDS(differential susceptibility)モデルの定義をもう一度繰り返す。「ある人々は不利な環境により傷つきやすいだけでなく、良い環境からもより大きな恩恵を受けやすい」。これに基づく理論は従来の考え方である「トラウマにより解離が生じる」である。私の28年前の「解離原性のストレス」という発想もそれに基づいたものだ。背景にあるのは、「ある種のストレスを体験すると人はみな解離する」という考えだ。つまりは環境因の種類を重視した考え方だ。  しかし実際は「一部の生まれつき解離しやすい人たちがいて、彼らは様々なストレスに解離的な反応を起こしやすい」という方がより正しい。しかし実はこれも正確ではない。「ストレスには様々な種類があり、解離を起こしやすいものと起こしにくいものが確かにあり、また人にも解離を起こしやすい人とそうでない人がいる」の方が最も正確であろう。すると「環境×その人の感受性」の組み合わせが解離を起こすということだ。  解離をある種の環境刺激への過剰とも言える反応として理解すると比較的すっきりと説明できる。子供の人格はこちらを愛着の対象と察知して遊びに出てくる。それは数少ないそのようなチャンスを見極めた、しかしそれ自体は意図的というより生理的な反応である。それはポージス的には腹側背側迷走神経の協働による愛着反応といえる。そしてそれは脅威を察知した時のフリージングとは対極的で、おそらくトラウマの要素を微塵も含んでいない。それもまた一種の相転移的な現象と言える。