2026年5月21日木曜日

ストレスとDID 15 

 脆弱性とは異なる「解離能」

 以上のように考えると、実は解離性障害の発症機序はストレス脆弱説ではとらえきれない問題があることがわかる。Stress-diathesis model(ストレス―脆弱性モデル、SDモデル)は、ストレス因に当人の脆弱性が関係して発症するというモデルだ。ちなみに diathesis は素因という意味で、古代ギリシャ語 diáthesis(性質・配置)に由来し、18世紀以降の医学で「病気になりやすい素因」を表す用語として定着した。だから diathesis は「脆弱性」と訳されることが多いのだ。 しかし問題は、解離を起こしやすい性質は脆弱性では片づけられないということだ。上述の「生き延びる価値」や創発性は脆弱性とは別の問題なのである。

 解離反応の一つの典型例として、私はいつもOBE(幽体離脱)を挙げる。これは一般人にも体験されることが多く例としてそれだけわかり易いからだ。、10~20%の人が体験するという研究もある。
Irwin, H J (1985). Flight of mind: Psychological study of the out-of-body experience. Metuchen, N J: Scarecrow.

Irwin, H J (1981). Some psychological dimensions of the out-of-body experience. Parapsychology Review, 12(4), 1-6.

自分が襲われそうになった時に、ふと意識がその体を離れ、それを見下ろしている自分が出現する。それはまったく意図したものではなく、自然に体の反応として生じるのである。そしてそれは明らかに進化論的にかなりプリミティブな段階で生物に備わっているものと見なすことができる。ライオンに駆られたインパラはもがき暴れることなく捕食者のなすがままに任せているように見える。
 同様の反応は様々にみられる。動物の子供は首を掴むことでいきなり力が抜け弛緩した状態になる。動物の子供が首(後頭部から肩の皮膚)をくわえられると、急に動かなくなり弛緩する現象は、科学的に「輸送反応(Transport Response)」と呼ばれているという。親が敵から逃げる時や巣を移動する際、子供が暴れると移動の邪魔になったり、敵に見つかりやすくなったりする。そのため、首をくわえられたら動かずにいることで、親は子供をスムーズかつ安全に運ぶことができるという。
 そしてこの反応は、心拍数を低下させ、泣き声を止め、体を丸めて運ばれやすい姿勢にする効果があるという。このように考えると、ライオンが捕食の際に首に噛みつくのは、そこに頸動脈があるからだけでなく、この輸送反応により獲物を大人しくさせるという目的があるのかもしれない。
 ここであるケースが語っていたことを思い出す。「外に出ている人格に引っ込んでもらう時、私は奥の手を使います。その人格の首のあたりを掴むんです。するとその人格はおとなしくなり、私が取って代わります。」

さらに端的なのはいわゆるイマジナリーコンパニオンの体験であろう。ある研究では5から12歳の一般人の二人に一人が幼少時にこのような体験を持つと報告している。

Pearson D, Rouse H, Doswell S, Ainsworth C, Dawson O, Simms K, Edwards L, Faulconbridge J. Prevalence of imaginary companions in a normal child population. Child Care Health Dev. 2001 Jan;27(1):13-22.