相転移としての解離
ここに表れる解離の性質は、それが心に不連続性を生み、それ以前とは全く異なる状態が出現するという点である。それはある組織が一つの状態からもう一つの状態にジャンプするとでも表現できるであろう。それは一つの心に起きた変化、というよりはもう一つの心が出現する現象と言えるかもしれない。先ほどの体外離脱がまさにそれを表している。
しかし心が実際に二つに分かれるという現象を想像できにくいとすれば、それに近い現象がいわゆる相転移である。
ここで手っ取り早く相転移を定義しようとして、ググると必ずAIの回答が出てくる。
「相転移とは、温度や圧力などの外部環境の変化により、物質が固体・液体・気体といった「相(状態)」を不連続に変化させる物理現象です。氷が水に溶ける、水が蒸発する、磁石の磁性が消えるなどが代表例であり、アボガドロ数程度の多数の原子が絡み合うことで生じるマクロな変化です。」そんなことは分かっている。
要するに物理現象に限らず、組織の構造の在り方が全面的に、かつ不連続的に生じることだ。 氷と水の間に生じるのは相転移の典型であるが、この中間状態もまた面白い。いわゆるフラクタル現象が見られるのはそのような時だ。水の分子が集合を作り出し、その集合がみるみる増えていき、その際の集合の大きさと数が、スケールフリーになり、冪乗則に従う。私はフラクタルオタクなのですぐこっちのほうに話を持っていきがちだが、とにかくある種の刺激で水から氷になるという変化は、人格AからBにスイッチするという現象ととても似ている。
実はこのような突然の変化はもちろん身体レベルでの変化を伴う。それを見事に表しているのが、ポージスのポリベイガル理論であろう。「ポリヴェーガル理論」(津田真人)を読むと「危機ないし脅威の環境では、皮質レヴェルは作動することなく、あるいはその前に、偏桃体~中脳水道周囲灰白質 (PAG) などの防衛システムが即座に作動する」とある。このシステムはあまりに長たらしいので「APAG」と呼ぼう。そして安全だとこのAPAGが、側頭葉により抑制されているために、皮質と結びついた向社会的行動が生じやすいという。「ニューロセプション」が危機を察した時に発動するこのAPAGは一種のスイッチの役割を話し、それが相転移(人格のスイッチング)にも関与しているのではないか。ただしここで不思議なことは、子供人格の出現は、APAGの発動とは程遠い状況で起きるということだ。これはポージスの考えを借りるならば、向社会的な反応の結果と見なせるのであろうか?