2025年11月9日日曜日

ヒステリーの歴史 改めて推敲 9

 FNSの概念と身体科からの歩み寄り  ― 「MUS」との関連において

 上述の通りFNSの登場は精神医学にとっても大きな動きをもたらしたが、その具体的な表れは、脳神経内科やリューマチ科、その他の「身体科」からの歩み寄りとして体験されているという印象を筆者は持つ。これまで精神科医は患者の身体症状の扱いに苦慮することが多かったが、それらの一部が身体疾患として概念化されて病名が与えられ、それぞれの科でも扱われるようになったのである。それらはたとえば慢性疲労症候群や線維筋痛症、PNES (psychogenic nonepileptic siezures 心因性非癲癇性発作)、片頭痛などである。これらに該当する症状を訴える患者は精神科外来でも少なからずみられたが、その多くは身体科でも引受先がなく、精神科医が痛みその他の身体症状に対する薬物的な対処の必要に迫られることが多かった。その際精神科医としては疼痛その他の症状に対して専門性を備えていないことを半ば自覚しながら、不本意な投薬を求められることのジレンマを抱えることも少なくなかった。そしてそれらの患者が精神科と並行して身体科を受診して専門的な視点から治療を受けることで援軍を得て孤独感や不条理な気持ちが和らぐ思いをしている精神科医も少なくないであろう。

この問題と関連して、最近いわゆる「MUS」、すなわち「医学的に説明できない障害 medically unexplained disorder」の概念の持つ重要性が増しているように思われる(岡野(2025)脳から見えるトラウマ.岩崎学術出版社)。