私の医学部時代のクラスメートのS先生が「心因性疾患」に非常に大きな興味を持たれ、ある著書を計画されているという。私はその中の一章「精神医学的にみた『心因性疾患』」をみたいなことを書くことになった。一見めんどくさそうな執筆に聞こえそうだが、実は私はこれが楽しみなのである。なぜならまさに精神医学のど真ん中のテーマだと私には思えるからだ。それは「心因性」や概念の持つ意味に切り込むテーマだからだ。「心因」の問題は古臭いようでいて実に奥深い。たかが「心因」、されど「心因」。
(ちなみに表題のFNDとは functional neurological disorder 機能性神経症状症のことである。)
私たちはかなり頻繁に身体症状に見舞われる。頭痛、吐き気、眩暈、腹痛、倦怠感‥‥。ピッチャーだったら「肩の張り」などというかもしれない。そしてそのかなりの部分は原因がはっきりしない。そんな時に私たちはよく「気のせい」とか「なんとなく」とか表現する。「ストレスのせいで」などという表現を用いることがある。
一つ頭に浮かぶ例を挙げよう。最近精神科では先発薬からジェネリックへの移行ということが盛んにおこなわれ、要するにブランド薬、例えばパキシル(製品名)の代わりにジェネリックのパロキセチン(パキシルの薬品名)に処方薬を変更するということが起きている。要するに政府の政策でより安い医薬品を提供するようにという圧がかかった結果である。するとブランドからジェネリックに代わっても「(効き目も、副作用も)何も違いはなかった」とおっしゃる大部分の患者さんと、「全然効かなくなった!」という一部の患者さんに分かれる事になる。ここで後者がどこまでプラセボ効果なのかが問題となるが、不思議と「ジェネリックの方がよく聞きました」(例えば眠剤のような場合)という反応はほとんどなく、「ジェネリックだと効きがよくありません」が大部分だという声を聴くことが多い。これは先発薬(高価なブランド品)→ ジェネリック(代替物としての後発品)という心理的な影響がずいぶん大きい気がする。
このような反応は特に精神科の患者さんだから起きるということは決してない。身体科の患者さんでも同様であるし、オーバーザカウンタ―薬を用いる私たちすべてが同じような体験をすることがある。私自身が体験する妙なプラセボ効果(というよりどう呼んだらいいかもう分からない)を話してみよう。