しばらくビリーミリガンについて考察した内容を振り返る。最終的に私が至った考えだ。解離は一つの能力であるし、おそらく誰でも潜在的に持っているということだ。しかしそれは解き放たれるためにはある種の秘密のカギが必要であり、それがトラウマということである。これはどういうことだろうか?
ミリガンは極めて多彩な面を持ち、数多くの人格はそれぞれがきわめて詳細に出来上がっていた。しかし彼は継父チャーマーによる激しい虐待によってしかそれを発揮できなかっただろうか。どうして健全な形で、より生産的な発揮の仕方が出来なかったのか?私たちは系譜による激しい虐待を受けることのなかったミリガンを想像することを禁じ得ない。しかしそれはおそらく不可能なことなのだ。彼は後に発揮する反社会的な、サイコパス的な振る舞いを一切見せることはなかったのであろうか? これが分からないのである。ミリガンの例についてある米国の高名な精神科医が言っていたことがある。ビリーミリガンの難しさは、彼が多重人格と反社会性の二つを併せ持っていたことであり、治療の過程で後者が手つかずであったとのことだ。そして当然ながら後者には遺伝的、ないしは生得的な要素がかなり大きい。ということは生まれながらにして彼にはそのような性質が備わっていたのであろうか。するとそれは虐待とは無関係に起きていたことなのか。私はこの疑問に答えを出すことに性急であるべきではないと思う。