2025年1月5日日曜日

「週1回 分析的サイコセラピー」書評 3

 次に第4章、「関係性以前の接触のインパクト」(藤山直樹)を読んでみる。藤山氏はいわばこの「週一回」の議論の火付け役である。彼は2014年に精神分析学会の会長を退く際の「会長講演」で、彼の有名な「平行移動仮説」を提唱した。それは週4回以上の精神分析の実践により意味を持つ「関係性の扱い」、すなわち変容惹起的な転移解釈(ストレイチー)などは、そのまま(平行移動的に)週一回の分析的治療で扱うことはできないという議論だ。

 藤山氏はいう。「よく誤解されるのだが・・・・週一回の価値を軽く考えているわけではない」(p.60)しかし論旨としてはやはり平行移動仮説への批判を展開することになる。彼の説をわかりやすく言うならば、週4回以上ではスムーズに、ないしは精神分析理論に沿って展開する治療が、週一回では大きな困難にぶつかる、というものである。それは端的に言えば週に1度治療者と会っただけで残りの6日間は治療を受けないという構造が非常に外傷的であり、治療においては冒頭部分においてそれを扱うことに多大な労力が割かれてしまうということだ。週に一度のセッションでは患者は情緒的に揺さぶられたまま残りの6日間を過ごすことになる。「抱えは乏しく、患者は剥き出しのはく奪にさらされている可能性がある」(p.67). 治療者としてはこの問題を扱うことが先決であり、それを扱わないことは分離のトラウマを治療者自らが否認していることにある。つまり転移解釈をしているどころではないというわけだ。その意味で「平行移動仮説」は棄却される。

 藤山氏の論文を読むと結局は週一回の治療はできれば避けるべきだと主張しているようである。それは経験を積んだ精神分析家がより注意深く扱うことによってはじめて外傷的とならずに治療的となりうる、と言っているように思える。そして彼の論文は週一回の独自性や存在意義については結局触れることなく終わっている。