2024年11月6日水曜日

解離における知覚体験 7

 幻聴の中でそれが正常範囲で生じるものか、病的なものかを分ける上で重要と考えられるのが、その内容が不快なものか否かという点であると指摘されている(Johns et al 2014) この論文では幻聴が陰性感情に伴い生じる場合には、それが精神病理の前兆となるとされる。まあ、当たり前の議論と言えるだろう。 幻聴の機序を解明することは難しいが、その中でそれを解離の文脈でとらえる向きがある(Longden, et al. 2012)そして解離性の幻覚体験を有する人にしばしば見られるのがトラウマ体験である。トラウマ→解離→幻聴(幻覚一般?)という路線が、精神病→幻聴という路線と共に意味を持つことになる。幾つかの研究が特に幼少時のトラウマ体験が解離傾向を生み、それが幻覚体験へとつながるという結果を報告している。

 ところで「わかりやすい解離性障害入門」星和書店 2010年 p131に次のような表を示したことを思い出した。


解離性障害

統合失調症

本人がそれを誰の声として感じるか?

「あの人の声だ」と特定出来ることが多い。(「あの人」とは交代人格である場合が多いが、かつての実際の加害者の声であることもあり、その場合はその幻聴はフラッシュバックの要素が増す。)

多くの場合、それが誰の声かがわからない。あるいは神や悪魔などの「超越的」な存在の声として感じられることもある。

どの程度声に影響されやすいか?

声におびえたり不気味に思ったりなど、様々な影響を受ける可能性がある。しかし別人の声が勝手に聞こえて来ると感じのように聞き流すことも多い。(ただし交代人格の声である場合は、時には自分がその声の主に成り代わってしまうことも生じる。)

幻聴の内容はしばしば、自分の意志や考えと区別がつかない。(通常は幻聴の内容イコール妄想内容、ということが起きる。たとえば「あいつがお前を狙っている」という幻聴を聞くと、そのことを理屈抜きで確信してしまう、など。)

関係念慮(自分にかかわってくるという印象)を伴うか?

通常は伴わない

(他人事のように聞こえる)

通常は伴う。

いつから体験されるか ?

幼少時から「想像上の友」の形で聞こえていることが多い。

思春期ないし青年期に統合失調症が発症した時、その前兆として数ヶ月程度前から聞こえ出すことが多い。

精神科の薬がどの程度有効か?

幻聴そのものにはあまり効果がない。

比較的効果がある。

(場合によっては劇的におさまる。)

 表4-1 解離性障害と統合失調症の幻聴の比較