2024年7月20日土曜日

守秘義務について 4

  守秘の問題で扱わなくてはならないもう一つの問題は、援助者の側の不安である。心理士の場合に特に顕著かも知れないが、面接中に強い自殺念慮を訴えた患者さんを前にした治療者の不安や心細さは計り知れない。特にその施設で他に援助を求めることが出来る同僚がいない時などは孤立無援の気分を味わうだろう。一つ確かなのは、少なくともそのようなケースは一人で抱えるにはあまりに負担であるということだ。出来るだけ上司、スーパーバイザー、同僚、場合によっては患者の家族などとの連携をあらかじめ持っておき、一人で孤立することを避けるべきであろう。その意味でもそのような問題が起きかねないケースではサポート体制を充実させておくことがとても大事であろうと思われる。  外部を交えたサポート体制が必要なもう一つの理由は、一人では患者への同一化が過剰に生じ、客観的な判断が出来ない可能性があるからだ。たとえば「母親の暴力の話をしたら大変なことになる、殺されるから絶対にしないでほしい。」と訴える子供がいたとする。治療者がその子供に共感し、ある種の同一化を起こすと、このことを児相に伝えなどしたら本当にこの子の身に危険が及ぶと思うかもしれない。しかしそれは実は母親が子供に行っている洗脳の一部である可能性が強い。CPTSDなどが生じる過程を考えればわかる通り、子どもが虐待者に囚われの身になっている状態では、その子に正常な判断をする力は低下しており、その子に同一化している治療者にも同様のことが生じている可能性がある。しかし外部の誰かがその子を救い出さなくてはならない。そして治療者はその外部性の一部を失いかけている可能性がある。治療者が患者と一対一の関係でその外部性を保つためには、そのまた外部の人が必要だ。これは「心的現実」とは全く逆の発想である。