3.脳科学が示す非決定論的な心の世界
最後に脳科学的に理解された心の最も基本的な特徴、すなわち非決定論的な性質が臨床家に何を促すかについて述べておこう。ちなみにこの点については、連載第4回の「脳の表面では神経ダーウィニズムが支配する」で述べたことにもつながる。脳で起きていることは無数の玉突き現象のようなものであり、その意味で脳(ニューラルネットワーク)はいわゆる複雑系と理解すべきシステムである。そこは偶発性や非線形的な動きが支配する非決定論的な世界なのだ。
複雑系としての脳や心は、例えるならば地球の動きのようなものだ。そこでは常にどこかで火山活動や地震が生じている。また各地でさまざまな気象現象が生じている。そしてその長期的な動き(巨大地震の再来、氷河期の到来など)は概ね予測し得るものの、細部は偶発的で予想不可能である。脳の動きも、その産物としての心の動きもその大雑把なパターンを同定することは出来るが、その細部は常に予測不可能なのだ。