2021年7月24日土曜日

嫌悪の精神病理 推敲 2

 ここで問題なのは、私たちはそのような報酬刺激に対してきわめて脆弱であるということである。私たちの脳は、脳はそのような過剰な報酬を安全な形で体験するようには設計されてこなかったのだ。その代わりに脳は過剰な快が結果的に耐え難いほどの嫌悪刺激をもたらすのである。ここに嫌悪の精神病理の核心部分があるのだ。

報酬系の機能と快、苦痛

ここで報酬系についてその働きを見てみよう。それを単純化すれば、それは報酬刺激を与えられることで興奮し、私たちに快感を与えてくれるのである。報酬系は先に述べた中脳の側坐核や中核野の周辺に広がる領域である。そこで特に重要なのが内側前脳束(medial forebrain bundle、以下BFB)という部位で、特に腹側被蓋野、ventral tegmentum, 以下VTA)から側坐核に向かって投射しているドーパミンニューロンである。VTAにはそのドーパミンニューロンの細胞体があり、そこから側坐核に軸索を伸ばしており、その興奮により側坐核にドーパミンが放出される。私たちが身体的に得られる快、精神的に得られる快がすべて、このMFBにおけるドーパミンニューロンの興奮に関わっているからだ。
 ただし報酬系は快感のみではなく、嫌悪刺激とも深く関係している、極めて複雑なシステムであることが分かっている。そして嫌悪刺激はアセチルコリンの放出にも関連しているが、同時にドーパミンも放出されることが分かっている。そして放出されるトーパミンとアセチルコリンの比(D/A比)が大きいと快感に、小さいと苦痛を生むという事が知られている。