2.統合情報理論
私にとってはこの問題について、何人か導き手になる注目すべき先達がいて、その一人がジュリオ・トノーニ Giulio Tononiというイタリア出身の脳科学者である。以下に彼の理論を少し紹介しよう。彼は数年前に京都大学にも招かれて講演を行ない、評判となったが、彼の唱える説というのは非常に興味深い。彼は心は巨大なネットワークの産物だと考え、それをΦ(ファイ)と呼んでいる。そしてそこに貯めることの出来る情報の多さが、意識のレベルを決めると考える。その単位もまたΦなのだ。すなわちあるネットワークがあった時にそこにどれほど情報を貯めることができるかということが、意識がどの程度複雑で込み入ったものになるかを決定するということだ。情報が貯められて、それを伝達することができるような処があったら、それは意識を成立させるのだというわけである。そして勿論、これは人間の脳でもAIでも同じだと考えられる。
図20-2
彼の著書の中の図(図20-2)を紹介しよう(Massimini,M.,
Tononi, G, 2013)。仮に8つの結び目があるとして、そこに適当に連絡路を張り巡らせて、3種類のネットワークを作ってみる。そして一番左のネットワークのどこかに刺激を与えると、隣の結び目に伝わり、全体には伝わらず、そこで終わってしまう。これは私が追加する説明だが、そこでおきたことを音にすると「チン」という感じで一瞬で終わってしまうわけだ。それがネットワークのごく一部だけが鳴るので高い音であろう。また右端の、一見複雑そうな情報網も1個を刺激するといきなり全体に情報が行き渡ってしまって、情報量としてはあまりない。しかし音は大きく、低くなるだろうから「ゴン」という感じだろうか。大きな鐘を叩いた音だ。これは同じΦ (情報量)となる。
ところが、8つの結び目から作ったネットワークで一番情報量が多いものをコンピューターで計算して作ることが出来るという。それが真ん中に示したネットワークだ。このΦはなんと74もあるという。つまり一箇所を刺激すると情報があちこちをめぐり、しばらく鳴り続ける。ジャラララーン♪とかいうメロディーが聞こえてきそうだ。するとこのΦが大きいネットワークの方が、それだけ複雑な意識をためることが出来るネットワークということになる。