2020年2月16日日曜日

顕著なパーソナリティ特性 推敲 1

はじめに ― 
カテゴリカルモデルとディメンショナルモデル
本稿ではICD-11におけるパーソナリティ障害において採用されたディメンショナルモデルにおいて掲げられた5つの顕著なパーソナリティ特性である否定的感情、離隔、非社会性、脱抑制、制縛性(セイバク、と読む)などについて論じる。
すでによく知られている通り、現在の精神医学におけるパーソナリティ障害をめぐる議論の趨勢は、従来のいわゆるカテゴリカルモデルから、ディメンショナルモデルに向かっているようである。カテゴリカルモデルとは、正常とは画然と区別されるべきいくつかの典型的なパーソナリティ障害を列挙するモデルであり、ディメンショナルモデルとは、パーソナリティ障害をいくつかの次元 dimension に分けてそれぞれの病理の深刻さの組み合わせにより示すという方針である。しかし2013年に発表された DSM-5 においては、結局これまで通りのカテゴリカルモデルが前面に示され、他方では 2018年に Web 上に公開された ICD-11 においてはディメンショナルモデルが全面的に採用されたということは、パーソナリティ障害をめぐる現在の混乱をそのまま表しているともいえる(林, 2019)。ただしこれはまたこれまで十分なエビデンスの支えもなく論じられてきたパーソナリティ障害の概念がより現代的な装いを新たにするために必要なプロセスかも知れない。さらには最近極めて頻繁に論じられる発達障害とパーソナリティ障害との関係性をめぐる問題も今後さらに絡んでくる可能性もある。
林直樹 (2019)パーソナリティ障害と現代精神科臨床 精神医学 61:144-149
ここでカテゴリカルモデルとディメンジョナルモデルがはらむ問題点とは何かについて、少し復習しよう。カテゴリカルモデルは古くはクレッチマーやシュナイダーなどのドイツ精神医学の伝統にさかのぼり、DSMではIVまで踏襲されたものである。しかしこのモデルは診断自体に重複が多く、また高い異種性 high heterogeneity すなわち様々な性質の混在であることが指摘されてきた。さらにはそもそも10掲げられてきたパーソナリティ障害(PD)について、その実在性に科学的なエビデンスがあるのかが問われてきたのである。
これらの問題の理解を多少なりとも理解しやすくするために、たとえ話を用いよう。従来から私たちの性格は「ドラえもん」に出てくるのび太タイプ、ジャイアンタイプ、スネオタイプに分かれているといわれてきたとする。人はそれぞれの典型例をアニメを頼りに思い浮かべることができるので、あまりこの分類を疑問には思われなかった。まあ、血液型のようなものである。しかしこのタイプ分けがどれほど実質的な意味を伴うかを知るために、たとえばAさん、Bさん、Cさん、Dさん・・・・について何人かの研究者がどのタイプに分けられるかを調べると、大きな問題が生じた。Aさんをある研究者はジャイアンタイプに近いと判断し、別の人はのび太タイプに近い、というふうにバラバラに診断を下すということがわかったのである。そしてそれはBさんにもCさんにも起こり、結局診断を下す人によってA,B,Cさんが持つ診断はかなり重複してしまうという問題が起きてきた。さらにはのび太タイプを定義するためのいくつかの条件は、ジャイアン、スネオのそれと一部重複せざるを得ないことも分かったのだ。(例えば素行の悪さ、とか学校の成績、など。)そしてそもそもジャイアンタイプの人というのは私たちの心のイメージにだけ存在し、純粋にジャイアンのような子供など、全校生徒のうち1,2名しかいないことも分かってきたのである。
このことはたとえば、循環気質、分裂気質、癲癇気質などの分類を考えればいいであろう。これらは教科書に載っていたというだけで、私たちはそれをあたかも実在するように感じていたからである。こうしてカテゴリカルモデルの信ぴょう性は失われていった……。