2020年1月26日日曜日

こころのデフォルトとしての揺らぎ 推敲 4


デフォルトネットワークと創造性

さてこのデフォルトモードネットワーク、最近では創造性を生み出すネットワークとしても注目されている。スリニ・プレイ氏の著書『ハーバード×脳科学でわかった究極の思考法』(千葉 敏生 翻訳、ダイヤモンド社、2018)を参考にする。
プレイ氏によれば、DMNの消費エネルギーは、集中状態の時に消費されるエネルギー量と比べ1520倍も多く、DMNはそれだけ重要な働きを持っているはずだと現在の研究者たちは考えているという。本当かな。そしてDMNを「鍛える」手段まで上げている。それらは運動、瞑想、独り言、空想や物思い、であるという。要するにこれらの活動をしているときは、脳はDMNの活動を示しているということだ。そして本書で著者が勧めているのが、マルチタスク能力を高めるということだ。これはどのようなことだろうか。
又吉氏のひらめき(NHKサイトより)
この問題は 201824日放送のNHKスペシャル「人体」第5集・脳で、お笑い芸人で芥川賞作家でもある又吉直樹氏の脳の画像を紹介しながら、創造性というテーマで放映されたのでご存じの方もいるかもしれない。この番組ではさらにDMNの活動の際、脳の広い領域が活性化してネットワークの全体がその結びつきを高めている状態として論じている。そこで動画で紹介された又吉氏の脳の画像がこれだが、ここで黄色く光っている部分がDMNの正中線領域そのものであるというわけだ。そしてその際、「このネットワークが、無意識のうちに私たちの脳の中に散らばる「記憶の断片」をつなぎ合わせ、時に思わぬ「ひらめき」を生み出していくのではないか、と今大注目されている」と紹介する。
 このように考えると、実はDMNは脳がそれまでの記憶や局所的な活動をいったん中断して、その全体を見渡して必要部分についての結びつきを強めるという非常に大事な役割をしているということが想像される。人は(あるいは動物一般といってもいい)その時その時でいろいろなタスクを行い、基本的には外部から入ってくる情報を処理し、それに適応して生活を行っている。ところがそれを継続しているだけでは、個々の情報はバラバラで関連性を持たない。そしてせっかく成立しかけたネットワークはいわば「通電」されないことで次第に衰退してしまう。それに対してDMNは個別的な作業を中止して、いわば脳の回路の全体を温め直す。そしてそこで思わぬ予想外の結びつきが成立する可能性をも与えているのであろう。
ただしDMNが興奮しているだけではおそらくあまり意味がないのであろう。先ほどプレイ先生が挙げたDMNを鍛えるための「運動、瞑想、独り言、空想や物思い」について考えてほしい。もしこれだけをひたすらやったとして、その人の人生は実り多いものとなり、創造性が発揮されるのだろうか? おそらくそうではない。ある創造的な活動を思い描くといい。偉大な発想を持った天才があるひらめきを持ったとする。すると彼はあたかも夢から覚めたように、その発想の科学的な根拠を精査するだろう。DMNは直ちに課題遂行ネットワーク(TPN)に移ることで、それを形にする必要があるのだ。そしてそこでやはり必要となるのが、DMNTPNとの絶えざる揺らぎといえるのだ。