チク先生のフロー体験の論述は、結局人間の幸福とは何かという点に向けられていると考えられる。「人間の最善の瞬間は、受身的で受容的なリラックスする時間というわけではない」と彼は言う。「最善の瞬間とは、困難で価値あることを達成しようという努力の中で、その人の心と体が限界まで拡張されることである。」 これがフロー体験のことを言っているのは、昨日示した図からも明らかであろう。その際に人は最高の満足体験を得ることになる。チク先生はそれが特に創造性を発揮する瞬間であることを強調する。
チク先生の生い立ちについても触れよう。彼はハンガリーに1934年に生まれ、第二次世界大戦の影響にさらされている。幼少時に彼はイタリアの監獄に入れられたが、そこでフローの体験につながる体験を持ったという。それはチェスを行うときの没頭体験であり、まるで違う世界で、違う時間の流れを味わうという体験だった。スイスに旅行中に、チク先生はかのCJユングの講演を聞き、心理学の面白さに目覚めたという。そしてそれをさらに深めるために米国に渡った。そして彼自身が画家であることもあり、芸術や創造的な活動を研究するようになった。そこでフロー体験に出会ったという。
チク先生の業績で有名なのが、サンプリング研究、ないしはビーパー研究と呼ばれるものであり、それは幸福を計測可能なものとして捉えたことで有名であるという。十代の少年少女にビーパーを与え、それが不定期になった時の体験を書いてもらう。すると大体において彼らは不幸を感じていたが、そのエネルギーを何かに注いでいるときは、そうではないということを発見したという。そしてそれがいわゆるポジティブ心理学に発展していったという。
(M.
チクセントミハイ:フロー体験 喜びの現象学 世界思想社、1996.)
における主張は、幸せは決して固定されたものではないということだ。それは私たちがフローを達成するプロセスで発達するものであるという。
さらにそのような道を歩む人を彼は、autotelic personality オートテリック(自己目的的)な人の特徴が挙げられている。それによると、
明確で直截的なフィードバックが得られるようなゴールを目指すこと。setting goals that have
clear and immediate feedback 特定の活動に没頭すること。Becoming immersed in the
particular activity 今起きていることに注意を払うこと。Paying attention to what is
happening in the moment 直接的な体験を楽しめるようになること。 Learning to enjoy immediate
experience 目の前の課題に対する自分のスキルに応じた課題を追及すること Proportioning one’s skills
to the challenge at hand であるそうだ。