2015年11月15日日曜日

最近の転換性障害の動向 投稿目前 (2)

現代における転換性障害の臨床的なあり方

 CD の症状は、ありとあらゆる運動ないし感覚障害の形をとる可能性があるが、ここでは臨床上しばしば接する失声について考えてみる。失声は CD の中でも臨床的にしばしば遭遇するので、それをCD の一つの典型例と考えることも出来よう。失声はその発症にはきっかけとなるような出来事が関係していることが多い。しかしそれは必ずしもトラウマと呼べるような体験とは言えず、たまたま風邪をひいて声がかすれて出にくくなったというような、自分の声に対する過剰な注意がきっかけになった場合もあれば、明白な心因やストレスが見られない場合もある。もちろん人は様々なストレスや悩みを日常的に経験しているのであり、ある症状のきっかけと時系列的に先行して生じていた出来事との因果関係は不明である場合も少なくない。一つ言えるのは、CD の症状の選択のされ方、発症時期などは心因論から説明のできないこともまたも多いということである。上述の「心因の有無は診断的に信頼できず、帰結を予想することは出来ない」Stone ,et al, 2009という主張はおおむね妥当といえよう。
臨床家が失声のような転換症状に接する際は、「なぜ声を出そうとしないのか?」「どうしてこんな簡単なことが出来ないのだろうか?」という一種のもどかしさを感じることも多い。器質的な異常は見当たらず、実際に解離性同一性障害においては失声のある人格とない人格が交互に現れる様子が見られることからも、患者が機能的には発声が可能であることが明らかであるために、そのような気持ちを抱きやすい。しかし同時に臨床家はこの障害おいては、中枢神経の別の部分がある種の自律性を獲得し、当人の意思の及ばぬ機序により声帯を抑制していることを理解しなくてはならない。DSM-5の変更点がいみじくも示しているように、「作為的に見える」「患者本人が診断に無関心である」と感じること自体が、CD の一つの特徴であることを忘れてはならない。
ところで現代的な知識を身に着けた精神科医は、CD に対して従来の「ヒステリー」に対するのとは異なる扱いをするのだろうか? 確かに DSM-5 の診断基準に見られるような同障害への理解の深まりは、臨床家の間にも浸透しつつあるのかもしれない。しかし実際の臨床の現場でのCD 患者は、解離性障害の患者と同様、頻繁に誤診の対象となり、また器質因の探索が集中的に行われた後は、精神療法を中心とした治療的介入がなされないまま、漫然と薬物療法が続けられるケースが多く見られる。臨床家には今後ともCD についての理解や治療に関する更なる進歩が望まれるであろう。

文献)

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