“Where Are
We Going? An Update on Assessment, Treatment, and Neurobiological Research in
DID as We Move Toward the DSM-5” B.L.Brand, et al. Journal of Trauma and
Dissociation, 13:9-31,2012 を読んでいく。
一つ注目したいのは、欧米ではDIDの治療の手法が標準化されつつあるということだ。この論文には慎重に考案された3部構成モデルが簡単に紹介されている。
第1ステージ:感情調節、衝動の統御、効果的な対人関係、グラウンディング(地に足をつけること)、侵入的な心的内容のコンテインメント(包み込むこと)とある。
第2ステージ:中核的な基本的介入とのバランスのとれた暴露・除反応の技法(ただし混乱している解離の患者を除く)
第3ステージ:余り明確ではなく、それぞれの患者により個別に決められる。そして驚くべきことに、統一unification はほんの少数の患者に取ってのみ期待されるとのことだ。
この3部構成モデルはこれだけではよくわからない。もちろん詳しく論じた原著に当たるしかないのだが、欧米の治療論というのはすぐスタンダード化する一方ではきめ細かい治療手順がわかりにくい。
また最近の研究で重要なのは、解離性障害そのものの予後ということよりも、他の様々な精神障害に解離的な要素が入り込んだ場合の予後の変化、という観点からの研究がなされているということである。治療を求めて受診した在役軍人の妻たちの調査では、彼女たちがDDを持っていた場合の治療セッションが一番多かったという。またマサチューセッツのメディケイドの情報によれば、DIDの治療費は、パニックや抑うつ、双極性障害以上にかかっているという。これはDIDの人の占める割合が、少ないことを考えればきわめて注目すべきことだという。(DIDの患者は全体の2.6%に過ぎないにかかわらず、メディケイドの入院経費の33.5%を占めるという。(p.15)
またDDの人は非常に高い自殺率や自傷行為を示すという。そして先ほどの3部構成の治療などを行なうことが、治療費を減らす意味で重要であるという。この事は、DDへの治療方法の考案がいかに重要かを医療経済的にも物語っていると言えるが、同時に存在するのは、DDの患者は十分に認識されないということである。
ここまでを読んで思うこと。DIDのひとびとが医療経済上の負担となっているということだが、見方を変えれば、DIDの治療には薬物療法以外の精神療法的なアプローチないしは入院治療がきわめて重要であるということを示していることになる。またDIDのひとびとがそうと認知されないということは、わが国では深刻な問題といえるが、欧米でもそれは依然として問題だということも考えさせられる。