さてこんなことをしている間に、時計の針は21分をさしている!社会生活暦、家族暦、医学的問題のチェックを4分でしなくてはならない。患者の幼少時から思春期、青年期、壮年期について、学校での適応、学歴、職歴などをみな4分で聞かなくてはならないなんて・・・・。ただし焦ることはない。質問の仕方はいくらでもある。どのように質問を向けるかに注意すれば言い。幼少児のことだって、「小さいころの思い出で、なにか強い印象に残ったことがありますか?」と聞くことで、すでに多くのことを一挙にカバーしていることになる。ただし精神科の面接では、もう少し焦点づけた質問のしかたをするのだが。私は以下の点についてははずさないで聞くようにしている。逆に言えば、それ以外はあまり重要度が高くないということだ。
「小さい頃の様子はいかがですか?何かとてもつらい思いをしたりしたことは?」そして相手の反応を見ながら、もう少し詳しい質問を欲しているという空気を読み、言葉を継ぐ。「たとえばとても厳しく育てられたとか、体罰を受けたとか、あるいは学校でいじめにあったとか・・・・・。」もちろん幼少時の性的、身体的虐待の有無を含めて聞こうとしているのであるが、なかなか言葉にしにくいことでもある。深刻な問題が幼少時にあったと感じられた際は、その存在がほのめかされたというだけでもいい。だいいち4分しかないのだ。(米国ではここらへんはかなりはっきり口に出して聞くことが多い。In your childhood, have you ever been physically or sexually abused? などというふうに。)
もちろん幼少時、学童期には他の問題についても聞いておきたい。「友達とはいかがでしたか?成績はどの程度でしたか?」成績の話などぶしつけだが聞いておきたい。ただしこれまでの話の経過から大学を卒業しているということがわかっているなら、成績の話を省いてもぜんぜんかまわない。「少なくとも平均以上の知能」という見立ては出来ているからだ。本人がIQ 130以上なのか、特異な音楽の才能があるか、などはこの際は重要ではない。あとは学校を出てからの職歴。長期間仕事を持たない時期があったかどうか?ここら辺はざっとさらう程度で患者さんの機能レベルを伺うことになる。もし引きこもりの問題がうかがわれる際には不登校の時期の有無、いつごろからはじまったのかを聞いておくことも重要となる。
家族歴はさっと一言で片付けることが多い。「ご家族や親戚の方々で、精神科的な治療を受けられたり、入院されたり、あるいは自殺をされたりした方はいらっしゃいますか?」ここでもし両親ともうつ病の既往があるなどということが聞かれれば、これは本人の確定診断に多少なりとも影響がないわけではない。しかしそれとて決定的ではない。家族歴が診断面接では最後の方に回り、手短に聞かれるとしたら、それはその情報源としての意味があまりないから、ということになるだろうか。
さてここら辺から面接者は時計と睨めっこである。どうしてもこの面接は最後の5分前には一段落付けなくてはならないからだ。大嵐のために。