ところでDSM‐5やICD‐11ではこのPDとDDの鑑別についてどのような立場を示しているだろうか?しかしそれらの診断基準を見てもあまり明確な回答は得られない。これらの診断基準は、両者の厳密な鑑別を求めているわけでもなく、またそれらの共存を禁じてもない。つまりこの問題は曖昧な形で扱われているのである。
DSM-5(2013)では、ASDはPDの中でもA群のスキゾイドPDや統合失調型PDとの区別は難しいと認めている。ただしASDは社交や情動的な行動及び興味の点でより障害されているとしている。またICD-11(2022)では長期的な精神科診断もPDのような表れ方をするとし、その例としてASD、スキゾイドPD, 複雑性PTSD 、解離性同一性症などを挙げたうえで、これらがPDと一緒に診断されることをあまり推奨していない。つまりASDとPDの診断が共存することは「薦められてはいない」のである。
ここで海外の文献もいくつか参照してみよう。
① Rinaldi, C, Attanasio, M,
Valenti, M et al. (2021) Autism spectrum disorder and personality disorders:
Comorbidity and differential diagnosis J Psychiatr. 11(12): 1366-1386
② Klang, A., Westerberg, B.,
Humble, MB, and Bejerot, S. (2022) The impact of schizotypy
on quality of life among adults with autism spectrum
disorder BMC Psychiatry (2022) 22:205
③ Chris Gordon, Mark Lewis, David
Knight et al (2020) Differentiating between borderline personality disorder and
autism spectrum disorder. 23 (3) 22-26.
①によれば、結局クラスターAでいえば、ASDとスキゾイド、スキゾタイパルとの鑑別が一番難しいとする。もちろんそんなことは分かっている。そこでのポイントはsocial cognition (SC)deficit(
社会的認知の欠陥)の違いだという。このSCの中でも注目されるのがいわゆるToM(セオリーオブマインド)、手っ取り早く言えば、どの程度他人の気持ちがわかるか、だ。Boules-Katri は advanced ToM test を、ASDとスキゾイド/スキゾタイパル、そしてコントロール群に実施した。このテストは情緒コンポーネントと認知コンポーネントに分かれるが、ASDでは両方が低かったのに対し、スキゾイド/スキゾタイパルでは明らかに認知コンポーネントが低かったという。またStanfiled 達はなんとfMRIで社会的認知を調べ、扁桃核の興奮がスキゾイド/スキゾタイパルで見られたという。そしてこれはASDではSCが低く、スキゾ…では高いという説に一致するという。つまり何らかの差があり、ASDではやはりSCが低いのに比べ、スキゾ…では対人関係で苦悩するという図式がおおむね妥当であるという。