CPTSDがICD-11に掲載されたことは、私たちに大きなインパクトを孕んでいた。それはトラウマ関連障害に関して新しい象限を与えてくれたということが出来る。実はそれ以前からトラウマを発達早期まで遡る長期間にわたり生じる問題としてとらえようという動きはあった。それは具体的には J.Herman の複雑性PTSD (1992) や B. van der kolk の「他に分類できない極度のストレス障害」(DDNOS,1994)であり、これらは1980年にPTSDの概念が登場してから10年の間に論じられるようになった、いわばPTSDを超えた問題、PTSDで捉え切ることのできないトラウマ関連障害が注目されるようになったという事情を反映していた。しかしそれが1994年のDSM-IVでも、さらには9年後の2013年のDSM-5でも掲載されず、それは多くの臨床家に失望を与えた。2022年のICD-11にCPTSDが掲載されたことは、それらの不満がある程度解消されることの一助となっていたことは間違いない。そしてそれらの診断基準を用いる臨床家の一人としての私自身も、CPTSDの診断名としての使い心地は決して悪くないというのが正直な感想である。
「診断名は結局は一種のラベリングである」というのは私が常日頃から感じていることである。ある病状を呈している患者さんをどのように診断し、分類するかは、その診断名の持つプロトティピカルなイメージがどの程度臨床像にピッタリ当てはまるのかという感覚に大きく依存する。このような診断名と共に患者さんをとらえると、その臨床的な在り方のイメージを他の臨床家にも伝えられるという感覚に意味がある。CPTSDについて言えば、これまではどの診断名を用いてもフィット感が得られなかった一群の患者さんがそのラベリングにより心の中でよりよく治まりがつく、ということを私は2022年以降数多く体験している。その意味で少なくとも私にとってはCPTSDはありがたい診断基準であるのだ。