トラウマ理論に加えてひとこと述べておきたいのは、いわゆるトラウマ関連障害についてである。そもそもPTSDなどのトラウマに関連した精神障害を掲げた1980年発刊のDSM-Ⅲにおいては、トラウマがその発症に関与しているということを示す精神障害のカテゴリーは存在していなかった。PTSDはDSM-Ⅲでは「不安障害」という大きなカテゴリーの下に位置付けられていた。そもそもDSM₋Ⅲは本来精神障害の病因には踏み込まない、いわゆる無理論的 atheoretical な 分類という建前であったので無理もなかったが、1994年発刊のDSM-IVにおいてもやはりPTSDは不安障害の一つとして位置づけられていた。そうして2013年に発行されたDSM-5によりようやく、「トラウマとストレス因関連障害 trauma- and Stresssor-Related Disorders」という枠組みが出来、そこにPTSDが治まったのである。すなわち「トラウマ関連障害」という考え方はまだ十数年の歴史しか持っていないことになる。 このトラウマ関連障害にはPTSD以外にも、急性ストレス反応と共にいわゆる反応性愛着障害や適応障害も含まれることになった。そして同様のカテゴリーは2022年に発刊のICD-11についても同様に設けられるようになったのである。 さてもう一つの世界的な診断基準である世界保健機構の診断基準はどうか。2022年に最終案がまとまったICD-11においてはDSM-5の動きに歩調を合わせて「ストレスに特異的に関連した障害」というカテゴリーが設けられそこにDSM-5と同様急性ストレス反応と反応性愛着障害や適応障害も含まれることになったが、その上に加わったのがいわゆる複雑性PTSD(以下、CPTSD)という診断基準である。