トラウマ治療および研究の権威の金吉晴先生とはいろいろな場所でご一緒しているが、先週の日本精神神経学会(6月17~19日、於パシフィコ横浜)のシンポジウム「PTSD概念の臨床と脳科学の連携」に登壇したこともとても良い学び機会になった。このブログでもここでの発表の準備のための草稿を長期にわたって書いていたが(ストレスとDIDシリーズなど)、PTSDの生物学的な研究の最近の流れを新たに知ることが出来た。 その一つが脳内のグルタミン酸という神経伝達物質の異常に関する研究である。ネズミを使った研究などで明らかになったのは、ストレスに置かれた際に脳内の扁桃体、海馬などにおけるグルタミン酸の伝達が亢進しているということである。PTSDのフラッシュバックなどの体験においては脳の過活動がいわば神経毒として働き、海馬などの萎縮を招くことが知られているが、そこにグルタミン酸が絡んでいることが知られるようになっている。そしてそのグルタミン酸のリセプターのうちNMDA型と呼ばれるものの拮抗剤がトラウマ記憶の改善につながるという研究がなされたのである。ここで非常に都合のいいことに、この拮抗剤として機能するメマンチンという薬剤は、すでにに認知症の治療薬として用いられて下り、その安全性も確認されており、それがPTSDの治療として有望だという研究が進んでいるというわけだ。いずれはメマンチンがPTSDの治療として認可される可能性もありうるというのが、金先生や、今回発表を行った堀弘明先生(国立精神神経医療研究センター)の見解でもある。一方で精神療法的、他方で薬物療法的な研究が手を携えて進んでいるのが現在のトラウマ研究なのである。